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眠っているあいだに年を取る街

この街では、眠っているあいだに年を取る。目を閉じるたび、時間が体の内側を静かに流れ、朝になると、昨日より少しだけ重くなった自分がそこにいる。鏡に映る変化はわずかだが、確かで、誰にも止められない。だから人々は眠ることを恐れ、同時に必要としてい...
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声が文字になる世界

声が文字になる世界では、人々は慎重に息を吸ってから話す。発した音が空中でほどけ、白や黒や淡い色の文字となって浮かび、やがて地面や壁や、誰かの心に落ちていくからだ。「おはよう」そう言えば、「おはよう」という文字が胸の高さに現れ、ゆっくりと沈む...
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使われなかった未来だけが集まる博物館

その博物館は、地図には載っていない。けれど、人生のどこかで道を曲がり損ねた人だけが、偶然その前に立つ。入口の看板にはこう刻まれていた。「使われなかった未来博物館」展示されているのは、過去でも現在でもない。選ばれなかった選択肢の先にあったはず...
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感情が置き去りになる横断歩道

その横断歩道では、信号が青に変わっても、すべてが一緒に渡れるわけではなかった。駅前の大通りにある、ありふれた白線の並び。通勤客も学生も、誰もが無意識に足を踏み出す場所だ。ただひとつ違うのは、ここでは人の感情だけが、たまに取り残されることだっ...
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笑い声が先に帰る日

その日は、夕方になると笑い声だけが家へ戻っていった。人はまだ街に残っているのに、声だけが先に帰る。商店街の角で聞こえたはずの高い笑いは、次の瞬間には空き家の玄関先に落ちていて、ドアの隙間から中へ滑り込んでいく。乾いた靴音やため息は取り残され...
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つまらないを回収する仕事

私の仕事は、「つまらない」を回収することだ。正式には感情環境整備課・無価値感情回収係。けれど誰もそんな長い名前では呼ばない。私たちはただ、「つまらないを集める人」と呼ばれている。つまらないは、放っておくと街に溜まる。通勤電車の隅、会話の途切...
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感情の自動販売機

夜の終電が通り過ぎたあと、商店街のはずれにある路地に、その自動販売機は立っていた。赤でも青でもない、名前のつけられない色で光る箱。ボタンの横には「感情 一本」とだけ書かれている。値段はどれも同じ、百円。最初にそれを見つけたとき、私は故障だと...
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きみが増える朝の物語

朝になるたび、きみは増えた。最初は一人だけだった。台所の窓辺で、湯気の向こうに立っている、昨日と同じ声、同じ背中。その存在が当たり前すぎて、私は異変に気づかなかった。二日目、きみは二人になった。歯磨き粉の泡を吐き出す私の背後で、ほとんど同時...
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落とし物センター(未来課)

市役所の地下三階にある落とし物センターには、案内板に載っていない部署がひとつある。「未来課」。正式名称はもっと長いらしいが、誰も正確には覚えていない。未来課に届けられるのは、財布や鍵ではない。まだ起きていない出来事の落とし物だ。私が配属され...
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明日を先に笑う人

その人は、明日を先に笑う人だった。まだ起きていない出来事の結末を知っているわけでも、未来が見えるわけでもない。ただ、明日について話すときだけ、少しだけ早く笑う。今日の話題では笑わないのに、明日の話になると、まるでもう一度それを思い出している...