不思議

ポケットに住みついた小さな宇宙

それに気づいたのは、帰り道のバスの中だった。いつものようにコートのポケットに手を入れたとき、指先に触れたのは、硬貨でも鍵でもなく、ひんやりとした空気だった。おかしいなと思って、そっと覗き込むと、そこには夜空が広がっていた。ほんとうに、小さな...
不思議

くしゃみで世界がひっくり返る午後

午後三時、窓の外はやわらかな光で満ちていた。授業も終わり、部屋にひとりきりの時間。ぼくは机に突っ伏して、なんでもない日がそのまま過ぎていくのを、少しだけ惜しいと思っていた。そのときだった。「……は、は……」くしゃみの予感は、たいてい唐突にや...
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きょうの運は拾いものです

きょうの運は、道ばたに落ちている。そう気づいたのは、朝の通学路で、わたしが小さな金色のボタンを拾ったときだった。ボタンは、コートについているような普通のものなのに、なぜか陽の光を集めるみたいにきらきらしていた。ポケットに入れると、かすかにあ...
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となりのベランダから届く春

春は、音でやってくる。はじめに気づいたのは、カーテンのすき間からこぼれるやわらかな風の音だった。冬のあいだ固く閉じていた窓を少しだけ開けると、くすぐったいような匂いが部屋に入りこんでくる。土と、陽だまりと、どこか甘いものが混ざった、知らない...
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きみと分けあうあたたかい秘密

春の終わりに近い、まだ少し冷たい風の残る夕方だった。きみと出会ったのは、古いアパートの裏にある、ひっそりとした空き地だった。雑草がやわらかく揺れて、どこか遠くで洗濯物の匂いがしている。そんな、誰にも見つからなさそうな場所。「ここ、あたたかい...
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ぽかぽか坂道の寄り道屋さん

町のはずれに、ゆるやかな坂道があります。春も夏も秋も冬も、その坂道だけはなぜか少しあたたかくて、歩いていると胸の奥までぽかぽかしてくる不思議な場所でした。坂の途中には、小さな木の看板が立っています。――寄り道屋さん ご自由にどうぞそう書かれ...
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迷子のしあわせ見つけました

商店街のはずれに、小さな掲示板がある。雨にも風にも少し曲がってしまった、古い木の掲示板だ。そこにはよく「迷い猫」や「落とし物」の紙が貼られている。その日、新しい紙が一枚貼られていた。――迷子のしあわせ見つけました。心あたりのある方は、夕方ま...
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星をひとつ借りる夜

その夜、ぼくは星をひとつ借りることにした。理由はとても単純だった。今日という一日が、少しだけさみしかったからだ。公園のベンチに座って空を見上げると、星はまるで遠くの町の灯りみたいに、静かに瞬いていた。どれもきれいだけれど、どれも遠い。「ひと...
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小さなありがとうが集まる店

商店街のはしっこに、ちょっと変わったお店がある。看板には、やわらかい字でこう書いてあった。「ありがとう屋」売っているのは、お菓子でも雑貨でもない。そのお店は、「ありがとう」を集めている。店の中には、大きなガラスびんが棚いっぱいに並んでいる。...
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きょうは風がやさしい理由

朝、窓を開けたとき、ゆうとは首をかしげた。「……あれ?」カーテンが、ふわり、と揺れた。けれど、いつもの風とちょっと違う。つめたすぎず、強すぎず、まるで誰かがそっと背中を押してくれるみたいな風だった。「きょうの風、やさしいなあ」そうつぶやきな...