面白い

笑うたびに色が変わる街

その街では、笑い声に色があった。朝、パン屋の前で子どもがくすくす笑えば、空気はやわらかなレモン色に染まる。バス停でお年寄りがふふっと笑えば、淡い藤色がふわりと広がる。大笑いが起きれば、街は一瞬で万華鏡のようにきらめいた。色はすぐに消えてしま...
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まちがいから始まる大正解

その日、ぼくは完全にまちがえた。いつもの帰り道、駅前のパン屋で買うはずだったのは、ふわふわのメロンパンだった。けれど、レジで渡された紙袋の中に入っていたのは、どう見ても固そうな黒いパンだった。表面はつやつやしていて、まるで夜をぎゅっと固めた...
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おやつの時間にだけ会える友だち

おやつの時間になると、学校の古い時計はほんの少しだけ遅れる。誰にも気づかれないくらい、ほんの一呼吸ぶんだけ。けれどその隙間に、わたしの秘密はすべりこんでくる。「きょうは何持ってきたの?」声は、机の下から聞こえる。わたしは周りをちらりと見渡し...
不思議

ポケットに住みついた小さな宇宙

それに気づいたのは、帰り道のバスの中だった。いつものようにコートのポケットに手を入れたとき、指先に触れたのは、硬貨でも鍵でもなく、ひんやりとした空気だった。おかしいなと思って、そっと覗き込むと、そこには夜空が広がっていた。ほんとうに、小さな...
不思議

くしゃみで世界がひっくり返る午後

午後三時、窓の外はやわらかな光で満ちていた。授業も終わり、部屋にひとりきりの時間。ぼくは机に突っ伏して、なんでもない日がそのまま過ぎていくのを、少しだけ惜しいと思っていた。そのときだった。「……は、は……」くしゃみの予感は、たいてい唐突にや...
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きょうの運は拾いものです

きょうの運は、道ばたに落ちている。そう気づいたのは、朝の通学路で、わたしが小さな金色のボタンを拾ったときだった。ボタンは、コートについているような普通のものなのに、なぜか陽の光を集めるみたいにきらきらしていた。ポケットに入れると、かすかにあ...
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となりのベランダから届く春

春は、音でやってくる。はじめに気づいたのは、カーテンのすき間からこぼれるやわらかな風の音だった。冬のあいだ固く閉じていた窓を少しだけ開けると、くすぐったいような匂いが部屋に入りこんでくる。土と、陽だまりと、どこか甘いものが混ざった、知らない...
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きみと分けあうあたたかい秘密

春の終わりに近い、まだ少し冷たい風の残る夕方だった。きみと出会ったのは、古いアパートの裏にある、ひっそりとした空き地だった。雑草がやわらかく揺れて、どこか遠くで洗濯物の匂いがしている。そんな、誰にも見つからなさそうな場所。「ここ、あたたかい...
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ぽかぽか坂道の寄り道屋さん

町のはずれに、ゆるやかな坂道があります。春も夏も秋も冬も、その坂道だけはなぜか少しあたたかくて、歩いていると胸の奥までぽかぽかしてくる不思議な場所でした。坂の途中には、小さな木の看板が立っています。――寄り道屋さん ご自由にどうぞそう書かれ...
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迷子のしあわせ見つけました

商店街のはずれに、小さな掲示板がある。雨にも風にも少し曲がってしまった、古い木の掲示板だ。そこにはよく「迷い猫」や「落とし物」の紙が貼られている。その日、新しい紙が一枚貼られていた。――迷子のしあわせ見つけました。心あたりのある方は、夕方ま...