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空に落ちていた忘れもの

空から、ことりと音がした。最初は、雪のかけらが屋根を打ったのだと思った。けれどそれは、二月の終わりにしてはあまりにやわらかい音だった。私はベランダに出て、手すりの向こうをのぞきこむ。落ちていたのは、青い封筒だった。切手も宛名もない。ただ、う...
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きょうは失敗がごちそうの日

その町では、月に一度だけ「失敗がごちそうの日」がやってくる。商店街の真ん中にある古い時計台が、夜の八時に三回だけ、わざと少し音程を外して鳴るのが合図だ。その日、人々は胸の奥にしまい込んでいた失敗を持ち寄り、皿に盛りつけるみたいに、ていねいに...
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明日をちょっとだけ早回し

商店街のはずれに、「明日をちょっとだけ早回しします」と書かれた小さな看板が立っている。時計店でも、写真館でもない。けれどガラス越しに見えるのは、大小さまざまな時計と、映写機みたいな古い機械だった。わたしは十七歳の誕生日の前日に、その店のドア...
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世界でいちばんやわらかい奇跡

その奇跡は、だれも気づかないほど、やわらかかった。町のはずれに「奇跡預かり所」という小さな店がある。看板もなく、ただ窓辺に白いカーテンが揺れているだけの場所だ。そこでは、起きなかった奇跡や、起きそこねた奇跡をそっと預かっている。店番をしてい...
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心がふわっと軽くなる研究所

その研究所には、重たい心しか入れない。街のはずれ、古い観測塔を改装した「心象浮力研究所」は、看板も出ていないのに、なぜか迷った人だけがたどり着く場所だった。扉には小さくこう書かれている。――ここでは、心の重さを量ります。初めてそこを訪れたと...
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眠らないパン屋と踊る朝

そのパン屋は、夜を閉めない。商店街の端、古い時計台の向かいにある小さな店。看板にはかすれた文字で「夜明け前ベーカリー」とあるが、ほんとうは夜明けだけでなく、昼も夕方も、そしていちばん深い夜も、ずっと灯りがともっている。店主の湊は、眠らない人...
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しあわせ予報はところにより快晴

この街では、毎朝六時になると空に「しあわせ予報」が映し出される。雲の形をしたスクリーンに、やわらかな声が流れるのだ。「本日のしあわせ予報。午前中はやや不安定。ところにより快晴」その“ところにより”が、どこなのかは誰にもわからない。わたしは予...
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星屑クリーニング店のにぎやかな夜

星屑クリーニング店は、日が沈んでからが本番だ。商店街のシャッターが半分ほど降りるころ、店の看板にだけ、やわらかな青白い光がともる。昼間はただの古びたクリーニング店だが、夜になると、扉の向こう側で小さな宇宙がざわめきはじめる。「いらっしゃいま...
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さよならを笑って言う練習

放課後の視聴覚室には、古びたピアノと、ひとつの張り紙がある。――「さよならを笑って言う練習会 毎週金曜日」最初にその紙を見つけたとき、わたしは冗談だと思った。さよならを、笑って? そんなことができるなら、きっと誰も泣かない。それでも、わたし...
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迷子のハッピーエンド

わたしは物語の中の「ハッピーエンド」です。本当は最後のページで、祝福の光みたいに現れて、恋人たちを抱き合わせたり、世界を元に戻したりする役目でした。けれどある日、くしゃみみたいな校正ミスが起きて、わたしは物語の途中に落ちてしまったのです。そ...