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心がふわっと軽くなる研究所

その研究所には、重たい心しか入れない。街のはずれ、古い観測塔を改装した「心象浮力研究所」は、看板も出ていないのに、なぜか迷った人だけがたどり着く場所だった。扉には小さくこう書かれている。――ここでは、心の重さを量ります。初めてそこを訪れたと...
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眠らないパン屋と踊る朝

そのパン屋は、夜を閉めない。商店街の端、古い時計台の向かいにある小さな店。看板にはかすれた文字で「夜明け前ベーカリー」とあるが、ほんとうは夜明けだけでなく、昼も夕方も、そしていちばん深い夜も、ずっと灯りがともっている。店主の湊は、眠らない人...
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しあわせ予報はところにより快晴

この街では、毎朝六時になると空に「しあわせ予報」が映し出される。雲の形をしたスクリーンに、やわらかな声が流れるのだ。「本日のしあわせ予報。午前中はやや不安定。ところにより快晴」その“ところにより”が、どこなのかは誰にもわからない。わたしは予...
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星屑クリーニング店のにぎやかな夜

星屑クリーニング店は、日が沈んでからが本番だ。商店街のシャッターが半分ほど降りるころ、店の看板にだけ、やわらかな青白い光がともる。昼間はただの古びたクリーニング店だが、夜になると、扉の向こう側で小さな宇宙がざわめきはじめる。「いらっしゃいま...
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さよならを笑って言う練習

放課後の視聴覚室には、古びたピアノと、ひとつの張り紙がある。――「さよならを笑って言う練習会 毎週金曜日」最初にその紙を見つけたとき、わたしは冗談だと思った。さよならを、笑って? そんなことができるなら、きっと誰も泣かない。それでも、わたし...
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迷子のハッピーエンド

わたしは物語の中の「ハッピーエンド」です。本当は最後のページで、祝福の光みたいに現れて、恋人たちを抱き合わせたり、世界を元に戻したりする役目でした。けれどある日、くしゃみみたいな校正ミスが起きて、わたしは物語の途中に落ちてしまったのです。そ...
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きみと世界の裏口から

世界には裏口がある、ときみが言い出したのは、梅雨の終わりだった。放課後の教室で、窓の外に垂れこめる雲を見上げながら、きみはひどく真面目な顔をしていた。「正面から出入りするから、みんな同じ景色しか見られないんだよ。裏口はね、忘れられたもののた...
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未来をくすぐる風の配達人

その街には、ときどき未来をくすぐる風が吹く。それは天気予報にも載らないし、洗濯物も揺らさない。ただ、人の胸の奥だけを、ふっと撫でていく。くすぐられた人は、まだ見ぬ出来事の輪郭を、ほんの少しだけ感じ取るのだ。風の配達人は、街のはずれの古いアパ...
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月曜日だけ空を飛べる靴

その靴は、月曜日だけ空を飛べた。商店街のいちばん奥、曜日ごとに看板の文字が変わる古びた靴屋で、わたしはそれを見つけた。日曜日の夕方だったから、看板にはまだ「準備中」とだけ書いてあった。けれど店の奥の棚で、淡い青色の靴が、まるで朝の空を切り取...
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ひとさじ分の奇跡は売り切れです

商店街のはずれに、その店はある。看板には、小さな文字で「奇跡、量り売り」と書かれている。ガラス戸を開けると、鈴が澄んだ音を立てる。棚には、瓶がずらりと並んでいた。金色の粉、青く光る結晶、朝焼けみたいな液体。どれも値札がついている。私は、その...