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未来にだけ存在する図書館

未来にだけ存在する図書館は、地図にも記録にも載っていない。ただ、まだ起きていない出来事の隙間にだけ、ひっそりと建っている。その図書館に入るには、「これから失うもの」をひとつ思い浮かべなければならない。失恋でも、若さでも、あるいはまだ手に入れ...
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世界が二周目に入っていることに気づく少女

二度目の春、桜は前より少しだけ咲き急いでいた。最初に違和感を覚えたのは、通学路の角にある自動販売機だった。売り切れのはずのミルクティーが補充されている。昨日、最後の一本を買ったのは、たしかに私だったのに。それは些細なことだった。けれど、その...
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笑い声を拾う係のひみつ

わたしの仕事は、落ちた笑い声を拾うことだ。街にはときどき、持ち主のいない笑い声が転がっている。たとえば、閉店した映画館のロビー。誰もいないはずなのに、椅子の足もとに小さな「はは」という欠片が落ちている。あるいは、雨上がりの歩道橋。水たまりの...
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今日は世界が寄り道する日

今日は、世界が寄り道する日だった。朝、目を覚ましたときから少しおかしかった。目覚まし時計は鳴らず、代わりに窓の外で見知らぬ鳥がゆっくり三回、咳をするように鳴いた。カーテンを開けると、いつもはまっすぐ伸びているはずの電線が、やわらかく弧を描い...
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死神のインターン

わたしが死神のインターンになったのは、大学三年の春だった。きっかけは、履歴書の書き間違いだ。本当は「志望動機:人の役に立ちたい」と書くはずが、うっかり「人の終わりに立ち会いたい」と変換して送信してしまった。三日後、「採用」の通知が届いた。差...
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感情の天気予報

この街では、朝のニュースよりも先に「感情の天気予報」が発表される。画面の中で微笑むのは、気象予報士ならぬ“心象予報士”のユリさんだ。背景には等圧線ではなく、色とりどりの雲がゆっくりと流れている。『本日の市内は、午前中いっぱい弱い不安が広がる...
不思議

世界が一文字だけ欠けている

その朝、ニュースキャスターは真顔で告げた。「本日未明、世界から一文字が消失しました」冗談のようだった。けれど街の看板はたしかにどこかおかしい。駅前の「平和通り」は「平和通」に、「ありがとう」は「ありがと」に、「さようなら」は「さような」に変...
不思議

時間を盗む猫

その猫は、夕暮れどきにだけ現れた。路地裏の壁にもたれ、わたしが仕事帰りの疲れをやり過ごしていると、足もとに柔らかな影が落ちる。見上げると、灰色の毛並みに金色の目をした猫が、こちらをじっと見ていた。首輪はない。けれど、どこか人慣れした顔つきだ...
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未来から届く間違い電話

その電話は、いつも午前二時十七分に鳴る。わたしの部屋の壁時計は、秒針の音だけがやけに大きい。眠れない夜にだけ、決まってコールが響く。非通知。三回きっかり鳴って、四回目の前に出ると、かすれた声が言う。「もしもし、そこは——まだ、間に合いますか...
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物語の余白を修理する仕事

わたしの仕事は、物語の余白を修理することだ。余白、といっても印刷の話ではない。誰かが書いた物語の、語られなかった部分。言えなかった本音。選ばれなかった結末。そこに空いた白い裂け目を、そっと縫い合わせるのがわたしの役目だった。部署は地下にある...