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しあわせは湯気のむこうにある

しあわせは、だいたい見えにくいところにある。たとえば、湯気のむこう。冬の朝、台所に立つと、やかんの口から白い湯気がふわりと立ちのぼる。窓の外はまだ薄暗く、雪は音もなく降り続いている。わたしはストーブの前で手をこすりながら、その湯気の向こうを...
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きみと半分こしたひみつ

夕暮れの帰り道、きみはポケットから小さなガラス瓶を取り出した。中には、ほんのり光る何かが入っていて、揺れるたびに淡い音がした。「これ、ひみつなんだ」そう言って、きみは少しだけ笑う。風が吹いて、並んで歩く影が長く伸びた。「ひとりで持ってるとね...
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あくびを分けあう帰り道

夕焼けがゆっくりと街の輪郭をやわらかく溶かしていく帰り道、わたしときみは並んで歩いていた。今日の空は、少しだけ眠たそうな色をしている。「なんか、あくび出そう」きみがそう言った瞬間、ほんとうに小さなあくびがこぼれた。つられるみたいに、わたしも...
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笑うたびに色が変わる街

その街では、笑い声に色があった。朝、パン屋の前で子どもがくすくす笑えば、空気はやわらかなレモン色に染まる。バス停でお年寄りがふふっと笑えば、淡い藤色がふわりと広がる。大笑いが起きれば、街は一瞬で万華鏡のようにきらめいた。色はすぐに消えてしま...
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まちがいから始まる大正解

その日、ぼくは完全にまちがえた。いつもの帰り道、駅前のパン屋で買うはずだったのは、ふわふわのメロンパンだった。けれど、レジで渡された紙袋の中に入っていたのは、どう見ても固そうな黒いパンだった。表面はつやつやしていて、まるで夜をぎゅっと固めた...
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おやつの時間にだけ会える友だち

おやつの時間になると、学校の古い時計はほんの少しだけ遅れる。誰にも気づかれないくらい、ほんの一呼吸ぶんだけ。けれどその隙間に、わたしの秘密はすべりこんでくる。「きょうは何持ってきたの?」声は、机の下から聞こえる。わたしは周りをちらりと見渡し...
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ポケットに住みついた小さな宇宙

それに気づいたのは、帰り道のバスの中だった。いつものようにコートのポケットに手を入れたとき、指先に触れたのは、硬貨でも鍵でもなく、ひんやりとした空気だった。おかしいなと思って、そっと覗き込むと、そこには夜空が広がっていた。ほんとうに、小さな...
不思議

くしゃみで世界がひっくり返る午後

午後三時、窓の外はやわらかな光で満ちていた。授業も終わり、部屋にひとりきりの時間。ぼくは机に突っ伏して、なんでもない日がそのまま過ぎていくのを、少しだけ惜しいと思っていた。そのときだった。「……は、は……」くしゃみの予感は、たいてい唐突にや...
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きょうの運は拾いものです

きょうの運は、道ばたに落ちている。そう気づいたのは、朝の通学路で、わたしが小さな金色のボタンを拾ったときだった。ボタンは、コートについているような普通のものなのに、なぜか陽の光を集めるみたいにきらきらしていた。ポケットに入れると、かすかにあ...
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となりのベランダから届く春

春は、音でやってくる。はじめに気づいたのは、カーテンのすき間からこぼれるやわらかな風の音だった。冬のあいだ固く閉じていた窓を少しだけ開けると、くすぐったいような匂いが部屋に入りこんでくる。土と、陽だまりと、どこか甘いものが混ざった、知らない...