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しあわせのつり銭は多めで

商店街のいちばん端に、その古びた店はある。看板には小さな文字で「つり銭屋」と書かれている。レジもなければ値札もない。あるのは、古い木箱と、真鍮の小さな皿だけだ。その店では、お金の代わりに「今日あったこと」を差し出す。嬉しかったことでも、悔し...
不思議

くるくる回る放課後惑星

わたしの通う学校の屋上には、放課後だけ現れる惑星がある。チャイムが鳴り終わると同時に、屋上の空気が水面みたいにゆらぎ、そこに直径三メートルほどの小さな星が、くるくると回りながら降りてくるのだ。色は日替わりで、月曜はレモン色、火曜は群青、水曜...
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おやすみ前の大冒険

夜の九時。まくらの上にあごをのせて、わたしは天井を見つめていた。明日は少しだけ苦手な発表の日だ。胸の奥が、きゅっと結ばれたままほどけない。「ねむらなきゃ」そうつぶやいたとたん、部屋のすみで、なにかが小さく光った。机の下に転がっていたのは、見...
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未来から来た転校生は方向音痴

その転校生が教室に入ってきた瞬間、わたしは思った。この人、きっと世界のどこかを間違えて来てしまったのだ、と。四月の終わり、桜がほとんど散ったころ。彼は黒板の前で小さく会釈し、「未来から来ました」と言った。教室は一瞬静まり返り、すぐに笑いが起...
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笑いすぎ注意報、発令中

その朝、町じゅうのスマートフォンが同時に震えた。《本日午前九時、笑いすぎ注意報を発令します。不要不急のくすぐりはお控えください》差出人は気象庁……ではなく、《感情気象観測所》。空の天気だけでなく、人の心の気圧も測る、ちょっと変わった役所だ。...
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うっかり魔法使いの休日

うっかり魔法使いのルオは、めったにない休日の朝を、たいへん慎重に迎えるつもりだった。なにしろ彼は、これまで幾度となく「ちょっとしたつもり」で世界をずらしてきた。くしゃみをすれば隣町にだけ春がもう一度来てしまい、鍋を焦がせば台所の時間が三分ほ...
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空に落ちていた忘れもの

空から、ことりと音がした。最初は、雪のかけらが屋根を打ったのだと思った。けれどそれは、二月の終わりにしてはあまりにやわらかい音だった。私はベランダに出て、手すりの向こうをのぞきこむ。落ちていたのは、青い封筒だった。切手も宛名もない。ただ、う...
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きょうは失敗がごちそうの日

その町では、月に一度だけ「失敗がごちそうの日」がやってくる。商店街の真ん中にある古い時計台が、夜の八時に三回だけ、わざと少し音程を外して鳴るのが合図だ。その日、人々は胸の奥にしまい込んでいた失敗を持ち寄り、皿に盛りつけるみたいに、ていねいに...
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明日をちょっとだけ早回し

商店街のはずれに、「明日をちょっとだけ早回しします」と書かれた小さな看板が立っている。時計店でも、写真館でもない。けれどガラス越しに見えるのは、大小さまざまな時計と、映写機みたいな古い機械だった。わたしは十七歳の誕生日の前日に、その店のドア...
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世界でいちばんやわらかい奇跡

その奇跡は、だれも気づかないほど、やわらかかった。町のはずれに「奇跡預かり所」という小さな店がある。看板もなく、ただ窓辺に白いカーテンが揺れているだけの場所だ。そこでは、起きなかった奇跡や、起きそこねた奇跡をそっと預かっている。店番をしてい...