面白い

風を結ぶポニーテール

海沿いの小さな町に、いつも髪をポニーテールに結んでいる少女・莉央がいた。彼女のポニーテールは、ただの髪型ではなく、町の人から“風を捕まえる尻尾”と呼ばれるほどよく揺れ、どんな時でも元気をくれる不思議な存在だった。中学生になった頃から、莉央は...
面白い

風まきタツオの大騒動

その町には、ちょっと変わった“風の子”が住んでいた。名前はタツオ。といっても人間ではない。彼は――生まれたての小さな竜巻だった。タツオは風が好き、空が好き、そして何より回ることが大好きだった。だが、生まれたてゆえに力加減がまったくできない。...
面白い

夜に咲く流れ星

夜の町は昼の顔をすっかり隠し、静けさに包まれていた。商店街のシャッターの端には、まだ乾ききらない雨粒がきらきらと光っている。そんななか、ひとりの青年がフードを深くかぶり、バックパックからスプレー缶を取り出した。名前はレン。昼間は工場で働き、...
恋愛

白銀の約束

山の空気は、冬になると少しだけきらめきを帯びる。冷たさの奥に、どこか甘い香りが混じるような——そんな気がするのは、きっとこの場所に特別な思い出があるからだ。美雪が初めてスキー場に来たのは、小学三年生の冬だった。父に連れられて滑った初心者コー...
食べ物

朝を飲むスムージー

北の小さな町・ルーメンヴァレーは、夏になると濃い紫色に染まる。山の斜面いっぱいに広がるブルーベリー畑が、一斉に実りの季節を迎えるからだ。どこを見ても小さな光の粒のように丸く輝く実が揺れ、風が通るたびに甘酸っぱい香りがふわりと漂う。その町に、...
食べ物

秋を結ぶ小さな山

山並みが黄金色に染まり始める秋の午後、小さな洋菓子店「ル・シエル」には、甘く香ばしい栗の香りが漂っていた。店主の由依は、窓辺の栗を手に取りながら、そっと微笑んだ。毎年この季節になると、必ず思い出す人がいるからだ。由依がモンブラン作りを始めた...
ホラー

闇に沈む鍵

夜の十一時、真冬の風が窓を鳴らす頃、私は一人、古びたアパートの部屋で報告書を書いていた。隣の部屋は数日前から空き部屋になっていて、壁越しの気配は全くない。あるのはキーボードと時計の音だけ――のはずだった。カサ…カサ…紙を擦るような音が、右の...
不思議

ウォンバットの小さな灯り

タスマニアの深い森に、「ルミ」と呼ばれる一匹のウォンバットが暮らしていた。丸い体に短い足、そしてつぶらな瞳。周りの動物たちは皆、彼を“のんびり屋のルミ”と呼んでいた。実際、ルミは朝の陽が高くなるまで巣穴から出てこないし、歩けばとことこ、食べ...
食べ物

緑の宝石が実る丘で

山あいに広がる小さな町・緑沢。朝になると、谷を渡る風がぶどう畑をそっと揺らし、葉の間に隠れた実がきらきらと光る。町の人々はその光を「緑の宝石」と呼んでいた。――シャインマスカットだ。この町で生まれ育った青年・悠人は、幼いころから祖父が作るぶ...
食べ物

チョコレートフォンデュの灯り

静かな山あいの小さな町に、「ルミエール」という古い喫茶店があった。木の梁がむき出しの店内には、どこか懐かしい甘い香りが漂い、冬になると毎晩のように淡い光がテーブルの上を揺らしていた。その光の中心にあるのは、店の看板メニュー――チョコレートフ...