面白い

青い迷路の午後

休日の午後、陽介はいつものように古びた公園にいた。目的はひとつ、木の枝と落ち葉で「迷路」を作ることだ。子どものころから迷路が好きだった。線の中を鉛筆でなぞる単純な遊びに、彼は無限の可能性を感じていた。落ち葉を並べていくうちに、周囲の子どもた...
面白い

黄金の道

十一月の風が、街をやわらかく撫でていた。並木通りを歩くと、足もとには黄金色の絨毯が広がっている。イチョウの葉だ。陽の光を受けてきらきらと輝くその葉の海を、由香はゆっくりと踏みしめた。毎年この季節になると、彼女はここを歩く。特別な理由があるわ...
食べ物

豆苗の窓辺

春の光が差し込む台所の窓辺に、ひと鉢の豆苗が置かれている。ガラス越しに揺れるその緑は、まるで小さな森のようだった。奈緒は、数週間前にスーパーで買った豆苗を食べたあと、残った根を水につけておいた。最初はただの気まぐれだった。けれど、数日でまた...
面白い

あの布の青

夏の午後、陽射しの粒がガラス越しに降り注ぐアトリエで、由奈は古びたデニムをほどいていた。母から譲り受けたミシンの音が、リズムを刻むように響く。トントン、トントン。机の端には、色あせたジーンズの山。どれも形も色も違うが、どれも彼女にとっては宝...
ホラー

緑の口笛

理科準備室の片隅に、それは置かれていた。大きな瓶の中、湿った苔と泥の上に根を張り、まるで口を開けたような形をしている――食虫植物。名札には「ネペンテス」とあった。三年生の美咲は、放課後の掃除の当番で初めてそれを見つけた。瓶の内側には細かい水...
面白い

流れの向こうへ

五月の風がやわらかく頬をなでた。陽射しはやや強く、川面に反射してきらきらと輝いている。春休みの終わり、拓海は父の古いボートを持ち出して、ひとり川下りをすることにした。川は小学校の裏山を抜け、田んぼを横切って、町の外れまで続いている。昔は父と...
ホラー

風の抜け道

十月の終わり、山岳部の友人・健司に誘われて、私は標高二千メートル近くの山小屋に泊まることになった。紅葉の時期を過ぎ、登山客もほとんどいない。健司が言うには、古い山小屋を管理している知り合いが改装の手伝いをしてくれる人を探しているのだという。...
食べ物

レモンゼリーの午後

春の光が、窓辺のカーテンを透かしていた。由美は、静かにスプーンを手に取り、小さなガラスの器の中のレモンゼリーをすくった。黄色い光を閉じ込めたようなそのゼリーは、ひとくち口に入れると、甘酸っぱくて、どこか懐かしい味がした。毎週日曜日の午後、由...
動物

森のくまの手紙

北の森の奥深く、雪解け水がきらめく小川のそばに、一頭のくまが暮らしていました。名前はトモ。冬眠から覚めたばかりの春の朝、トモは巣穴の前で鼻をひくひくと動かしました。森の匂い。湿った土と若葉、そしてどこか甘い香り。その香りをたどって歩くと、小...
面白い

勝手に動くおもちゃ

古びた木造の家の二階、ほこりをかぶったおもちゃ箱の中に、それは眠っていた。ゼンマイ仕掛けのブリキのウサギ。片方の耳が少し曲がり、ペンキの塗装もところどころ剥げている。名前は「ピップ」。かつてこの家に住んでいた少女・みゆが大切にしていたおもち...