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虹色の先に

幼いころから、紗良はクレヨンが大好きだった。新品の箱を開いたときに広がる、ほのかな蝋の匂い。丸くて少し頼りない、けれど手になじむ形。そして何より、紙の上を走らせたときに生まれる、あの鮮やかな色彩。大人になってからもその気持ちは変わらなかった...
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小さな水槽の大きな世界

アパートの一室。陽の当たる窓辺に、縦長の水槽がひっそりと置かれている。透明な水の中では、小さなエビたちが脚をせわしなく動かし、砂の上を歩いたり、ガラス面をつまつましたりしていた。この水槽を毎朝覗き込むのが日課の人物――由奈(ゆな)は、今日も...
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秋色に染まる刻

山の斜面が、燃えるような赤と黄金に染まる季節になると、遥はそわそわし始める。街路樹が色づき始める頃には、すでにリュックの中身を整え、次の週末の天気予報を毎日確認するのが恒例だった。彼女にとって紅葉狩りは、ただの季節行事ではない。胸の奥の深い...
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空は逃げない

秋晴れの朝、海斗は小さな飛行場のゲートをくぐった。胸の奥が少し震えているのは、冷たい空気のせいだけではない。今日は人生で初めての遊覧飛行――ずっと憧れていた「空から世界を見る」夢が叶う日だったからだ。受付を済ませると、パイロットの女性・若葉...
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コスモス畑の風にのせて

秋のはじまりを知らせる風が、丘の上のコスモス畑をそっと揺らしていた。淡い桃色、白、そして夕陽のような濃い赤——無数の花が風にさざめき、まるで世界が柔らかな絵筆で塗り重ねられたようだった。七海は、その畑をひとりで歩いていた。ここは、小さい頃、...
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カイの島風

南の島の入り江に、一本のヤシの木が立っていた。白い砂浜に影を落とし、季節が巡っても変わらない穏やかな姿で、島に訪れる人々を静かに見守ってきた。島の人々はその木を「カイ」と呼んでいた。古くからそこにあり、まるで島の長老のように、誰よりも海と風...
不思議

雲の上のゴンドラ便

高原の町・ミストロッジには、朝になると不思議な音が響く。チリン、チリン——まるで小さな鐘が風に乗って転がるような涼しい音。それは、町と雲の上を結ぶ一本のゴンドラが動き出した合図だった。ゴンドラの名前は「スカイメロウ」。青い湖のような色をした...
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レザーウッドハニーの物語

タスマニアの深い森に、ひときわゆっくりと時を刻む木がある。レザーウッド――その名のとおり、革のように丈夫な樹皮を持ち、気まぐれに花を咲かせる木だ。森に住む人々は昔から、その花が開く瞬間を「森が呼吸する時」と呼んだ。なぜなら、レザーウッドの花...
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午後三時の約束

晴れた日の午後三時、商店街のはずれにある小さな喫茶店「リーフノート」に、香澄は今日も足を運んでいた。木の扉を押すと、ベルが軽やかに鳴る。カウンターの奥ではマスターが穏やかな笑顔で迎えてくれる。「いつものミルクティーでいい?」「はい。お願いし...
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小さな部屋の住人

麻子は掌に乗るほどの小さな椅子を指先で撫でていた。木目の細やかさ、背もたれの曲線、そのどれもが本物の家具さながらの完成度だ。手のひらの中に、小さな世界が確かに存在している。その感覚がたまらなく好きだった。部屋の棚には、彼女がこれまで集めてき...