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風まきタツオの大騒動

その町には、ちょっと変わった“風の子”が住んでいた。名前はタツオ。といっても人間ではない。彼は――生まれたての小さな竜巻だった。タツオは風が好き、空が好き、そして何より回ることが大好きだった。だが、生まれたてゆえに力加減がまったくできない。...
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夜に咲く流れ星

夜の町は昼の顔をすっかり隠し、静けさに包まれていた。商店街のシャッターの端には、まだ乾ききらない雨粒がきらきらと光っている。そんななか、ひとりの青年がフードを深くかぶり、バックパックからスプレー缶を取り出した。名前はレン。昼間は工場で働き、...
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白銀の約束

山の空気は、冬になると少しだけきらめきを帯びる。冷たさの奥に、どこか甘い香りが混じるような——そんな気がするのは、きっとこの場所に特別な思い出があるからだ。美雪が初めてスキー場に来たのは、小学三年生の冬だった。父に連れられて滑った初心者コー...
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夕焼けを追いかける人

赤く滲む空を見つめると、胸の奥に小さな灯がともし始める——そんな感覚を初めて覚えたのは、小学生の頃だった。放課後、校庭の片隅で一人遊んでいると、夕陽が水平線に沈む瞬間、空の端が金色に揺れた。まるで世界が呼吸するようなその光景に息を呑み、気が...
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白星に触れず──エーデルワイスの願い

アルプスの山々に抱かれた小さな村・ブランネには、毎年夏になると観光客が訪れた。けれど村の人々が本当に大切にしているのは、華やかな季節でも賑やかな市場でもなく、雪解けの岩場にひっそりと咲く白い花——エーデルワイスだった。村の若者レオンは、その...
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灯りを運ぶ屋形船

東京湾に浮かぶ屋形船「みづき」は、古びた木の香りと、どこか懐かしい提灯の明かりに包まれていた。船主の川島遼太郎は、祖父の代から続く屋形船を三代目として継ぎ、今日も夕暮れの出航準備に追われていた。遼太郎が船を継いだのは五年前。サラリーマンとし...
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冬灯りのホットワイン

風花が舞う十二月の夕暮れ、町の広場ではクリスマスマーケットの準備が進んでいた。木々には電飾が灯り、赤や金色の屋台が並ぶ。屋台のひとつに、小さな看板が揺れている——「ホットワイン クララ」。クララは二十六歳。祖母から受け継いだレシピをもとに、...
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虹色の先に

幼いころから、紗良はクレヨンが大好きだった。新品の箱を開いたときに広がる、ほのかな蝋の匂い。丸くて少し頼りない、けれど手になじむ形。そして何より、紙の上を走らせたときに生まれる、あの鮮やかな色彩。大人になってからもその気持ちは変わらなかった...
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小さな水槽の大きな世界

アパートの一室。陽の当たる窓辺に、縦長の水槽がひっそりと置かれている。透明な水の中では、小さなエビたちが脚をせわしなく動かし、砂の上を歩いたり、ガラス面をつまつましたりしていた。この水槽を毎朝覗き込むのが日課の人物――由奈(ゆな)は、今日も...
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秋色に染まる刻

山の斜面が、燃えるような赤と黄金に染まる季節になると、遥はそわそわし始める。街路樹が色づき始める頃には、すでにリュックの中身を整え、次の週末の天気予報を毎日確認するのが恒例だった。彼女にとって紅葉狩りは、ただの季節行事ではない。胸の奥の深い...