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図書館の家

風間直樹(かざま・なおき)は、物心ついたときから本が好きだった。最初に読んだのは、色褪せた児童書――冒険もののファンタジーで、ページをめくるたびに異世界へと連れていかれる感覚に心を奪われた。以来、本は彼の世界の中心になった。高校では図書委員...
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春風とさくらエビ

春の訪れを告げる風が、静岡県の駿河湾沿いの小さな町、由比の港に吹き抜けた。桜の花がほころびはじめ、海の色もどこか淡くやさしい。そんな季節になると、町はほんのりとした甘い潮の香りに包まれる。さくらエビの季節だ。中村陽一(よういち)、五十五歳。...
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ぷるぷるリップの革命

彼女の名前は朝比奈玲奈。二十五歳の会社員で、都内の化粧品メーカーに勤めている。玲奈には、誰にも譲れないこだわりがあった。それは――唇のケア。彼女のポーチには、いつも五種類以上のリップクリームが入っている。保湿力重視のもの、ほんのり色づくもの...
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指先の魔法

美咲はネイルが好きだった。鮮やかな色、繊細なデザイン、指先に施される小さなアート。それらは彼女の日常に彩りを与え、心を弾ませてくれた。高校時代、校則の厳しい学校に通っていた美咲は、派手なネイルはもちろん、ほんの少しのマニキュアすら許されなか...
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桜色の出会い

桜井桃子は、ピンクが大好きだった。彼女の部屋は壁紙からカーテン、ベッドカバーまで一面ピンク。クローゼットを開ければ、薄桃色のワンピース、ローズピンクのブラウス、ショッキングピンクのスカートがずらりと並んでいる。小物もすべてピンクで統一されて...
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揺らぐ色、交わる想い

青木透は、マーブル模様が好きだった。絵具を混ぜたときの偶然生まれる模様、珈琲にミルクを垂らした瞬間に広がる流線。自然が織りなすその不規則な美しさに、彼は心惹かれていた。透は美術大学で染色を学び、特にマーブル染めに傾倒していた。だが卒業後は生...
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果樹園のこども

陽の光が降り注ぐ丘の上に、一面に広がる果樹園があった。リンゴ、モモ、ナシ、サクランボ——四季折々に色とりどりの果実が実るその場所で、一人の少年が育った。少年の名は春馬(はるま)。彼の家は代々この果樹園を守ってきた農家だった。生まれたときから...
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白湯の向こう側

朝の静けさの中で、湯気がゆっくりと立ち昇る。透き通ったカップに注がれた白湯は、まるで心の中のざわめきを鎮めるように、穏やかな温もりを宿していた。冬木(ふゆき)遥は、毎朝白湯を飲むことを日課にしていた。目覚めるとまず電気ケトルに水を入れ、ゆっ...
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空に手を伸ばして

秋山直樹は、高所恐怖症だった。幼い頃、祖父に連れられて行った展望台で、ほんの数メートル先の柵の向こうに広がる空間を見た瞬間、足がすくみ、手に汗がにじんだ。それ以来、高いところは彼にとって避けるべき敵となった。そんな彼が、ビルの窓拭きの仕事を...
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命のスイカと少年

夏の太陽が照りつける田舎の小さな村。そこで育てられるスイカは、全国でも評判の甘さを誇る。しかし、今年の夏、そのスイカ畑に奇妙なことが起こった。村の少年・大地は、祖父のスイカ畑を手伝いながら育った。朝早くから畑の見回りをし、草むしりをしながら...