食べ物

食べ物

やさしさはプリンのかたち

高橋杏(たかはし・あん)はプリンが好きだった。いや、「好き」という言葉ではとても足りない。もはや人生における存在理由のひとつといっても過言ではない。朝食にプリン、昼もコンビニでプリン、夜はスーパーで買った特売プリンで一日を締めくくる。もちろ...
食べ物

甘納豆の手紙

その町には、昔ながらの駄菓子屋「たけうち商店」があった。木造の店は時代の流れに取り残されたようにぽつんと立ち、今では店主の竹内トメばあさんが一人で切り盛りしている。色褪せたのれんをくぐると、カラフルなあめ玉やビニール袋に詰まった駄菓子が並ん...
食べ物

ただいま、ごはん

小町悠(こまち ゆう)は、生まれたときからお米が好きだった。赤ん坊のころはミルクよりおかゆに喜び、小学生になるころには炊き立てのご飯の香りで目を覚ました。高校の卒業文集に「将来の夢:お米屋さん」と書いたほどである。だが、大学進学とともに都会...
食べ物

海の香りとフィッシュチップス

北の港町、シーブルック。冷たい潮風が通りをすり抜ける夕暮れ時、一軒の古びたフィッシュアンドチップスの店が小さな明かりを灯していた。その名も「ジョージの屋台」。店主のジョージは、白髪まじりの髭をたくわえた年老いた男で、50年以上も同じ場所で変...
食べ物

虹色キャンディとマコトの秘密

マコトは、カラフルなお菓子が好きだった。いや、「好き」という言葉では足りない。赤、青、緑、黄色、オレンジ、ピンク……パレットのように並んだキャンディやグミを見るだけで、彼の心は躍った。色が多ければ多いほど、味も香りも想像力も広がるのが楽しく...
食べ物

ラムの香りに誘われて

町の外れに「キッチン・バルバラ」という小さなレストランがある。洒落た名前に反して、出てくる料理はどれも気取らず、しかし驚くほど美味しいと評判だ。この店に、ほぼ毎日通ってくる常連客がいた。名前は有馬 透(ありま とおる)、三十五歳、独身、会社...
食べ物

ミックスジュースと月曜日

坂口遥(さかぐちはるか)は、毎週月曜日の朝にミックスジュースを飲む。それはもう、誰にも譲れない習慣だった。きっかけは二年前。遥がこの町に引っ越してきたばかりの頃、慣れない職場と一人暮らしのストレスで体調を崩しかけていた。そんなとき、たまたま...
食べ物

ビーフシチューの人

小さな町のはずれに、「クラール食堂」という古びた洋食屋がある。外観は年季が入り、赤茶けた看板にはうっすらと「創業 昭和四十三年」の文字。週末には観光客もちらほら訪れるが、常連の多くは地元の顔なじみだ。この食堂の名物は、なんといってもビーフシ...
食べ物

風のように甘く

その街には、風のようにやさしい味のするシフォンケーキを焼く小さな店があった。店の名前は「空色オーブン」。古びた商店街のはずれにひっそりと佇むそのお店は、表から見れば普通のベーカリーのように見えたが、店内にはシフォンケーキしか置かれていなかっ...
食べ物

きなこの味

きなこが好きだ、と彼女は言った。大学のキャンパスで初めて話したとき、彼女は手に持ったきなこ餅をひとくち食べながら、笑った。「こういう素朴な味って、なんか落ち着くんだよね。おばあちゃんを思い出すの」その笑顔が、あまりにも自然で、僕は一瞬で心を...