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フリージアの咲くころ

毎年、春になると駅前の花屋にフリージアが並ぶ。黄色や白、時には淡い紫のその花たちは、どれも陽だまりのような甘い香りをまとっていた。佐々木紘はその花を見るたびに、ある一人の女性のことを思い出す。――奈々。大学時代、サークルで出会った彼女は、ど...
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雨とドッグカフェ

木造の小さな家の一階部分を改装したドッグカフェ「いぬもあるけば」は、町外れの静かな通りにあった。店主の佐々木千景(ささき ちかげ)は三十代半ば。落ち着いた雰囲気をまとい、犬たちにはいつも穏やかな声で話しかけていた。カフェには看板犬の柴犬「も...
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リスのポンと森のキャンプ場

深い森の奥に、小さなリスが一人で営むキャンプ場がありました。その名も「どんぐりキャンプ場」。リスのポンが切り盛りしているこの場所は、季節ごとに違った顔を見せ、森の仲間たちに大人気でした。ポンは、働き者のリスです。春には草を刈り、夏にはテント...
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火のゆらめきを見るひと

山の中の古びたキャンプ場に、焚き火だけを見に来る男がいる。名を田島という。年齢は五十を少し過ぎたころだろうか。季節を問わず、月に一度は決まってこの場所に現れては、小さな焚き火を起こし、何をするでもなく炎のゆらめきをじっと見つめて帰っていく。...
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にんじんジュースの約束

深い森の奥、だれも知らない小さな村に、「にんじん村」というところがあった。そこでは、にんじんがまるで金のように大切にされていて、村人たちは毎朝、にんじんを丁寧に収穫し、特別な方法でジュースにしていた。この村のにんじんジュースは、ただの飲み物...
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図書館の家

風間直樹(かざま・なおき)は、物心ついたときから本が好きだった。最初に読んだのは、色褪せた児童書――冒険もののファンタジーで、ページをめくるたびに異世界へと連れていかれる感覚に心を奪われた。以来、本は彼の世界の中心になった。高校では図書委員...
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春風とさくらエビ

春の訪れを告げる風が、静岡県の駿河湾沿いの小さな町、由比の港に吹き抜けた。桜の花がほころびはじめ、海の色もどこか淡くやさしい。そんな季節になると、町はほんのりとした甘い潮の香りに包まれる。さくらエビの季節だ。中村陽一(よういち)、五十五歳。...
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ぷるぷるリップの革命

彼女の名前は朝比奈玲奈。二十五歳の会社員で、都内の化粧品メーカーに勤めている。玲奈には、誰にも譲れないこだわりがあった。それは――唇のケア。彼女のポーチには、いつも五種類以上のリップクリームが入っている。保湿力重視のもの、ほんのり色づくもの...
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指先の魔法

美咲はネイルが好きだった。鮮やかな色、繊細なデザイン、指先に施される小さなアート。それらは彼女の日常に彩りを与え、心を弾ませてくれた。高校時代、校則の厳しい学校に通っていた美咲は、派手なネイルはもちろん、ほんの少しのマニキュアすら許されなか...
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桜色の出会い

桜井桃子は、ピンクが大好きだった。彼女の部屋は壁紙からカーテン、ベッドカバーまで一面ピンク。クローゼットを開ければ、薄桃色のワンピース、ローズピンクのブラウス、ショッキングピンクのスカートがずらりと並んでいる。小物もすべてピンクで統一されて...