面白い 雲の手紙 子どものころから、空を見上げるのが好きだった。遊び仲間が鬼ごっこに夢中になっているときも、僕は校庭の端に寝転び、流れる雲をじっと見ていた。羊の群れのように連なる雲、巨大な山のように立ち上がる雲、そして夕暮れに染まって燃えるような雲。形も色も... 2025.09.21 面白い
面白い 最後のコード 古びた木造の家の奥に、一本のギターが眠っている。ネックは少し反っていて、弦も錆びつき、音はかすかに歪んでいる。それでもそのギターは、誰かが奏でてくれるのを静かに待っていた。持ち主だったのは、今は亡き祖父・昭三(しょうぞう)。若い頃はブルース... 2025.09.21 面白い
面白い 碁盤のささやき 古びた町の一角に、小さな囲碁教室があった。看板も色褪せていて、初めて見る人はそこに人が集っているとは思わないだろう。しかし、放課後になると子どもたちが駄菓子を片手に集まり、碁盤の上に石を打ち合う音が響いていた。少年・悠斗は、ある日、友だちに... 2025.09.21 面白い
面白い 土の城の住人たち 森の奥深くに、ひときわ大きな蟻塚があった。高さは子どもの背丈ほどもあり、まるで小さな城塞のように盛り上がっていた。土の壁は幾度もの雨風を耐え抜いて固く、内部には無数の通路が走り、卵を守る部屋、食糧を蓄える倉庫、働き蟻たちの寝床が整然と分かれ... 2025.09.18 面白い
面白い 整理の向こう側 佐伯美香は、小さなワンルームの部屋に住んでいる。会社勤めの事務員で、特別派手な趣味があるわけではない。けれども彼女には、人から不思議がられるほど熱中していることがある――収納だ。棚に並ぶ書類はラベルの色で瞬時に区別でき、衣類は色と季節ごとに... 2025.09.17 面白い
面白い 荷台に揺れる約束 町はずれの整備工場の片隅に、一台の古びたトラックが眠っていた。青い塗装はところどころ剥がれ、荷台には小さな錆が浮かんでいる。エンジンをかけると少し苦しそうな音を立てるが、それでも確かな力を残していた。このトラックの持ち主は、四十代半ばの運送... 2025.09.16 面白い
面白い ユリが咲くたびに 夏の初め、真白なユリが庭先に並ぶ季節になると、里奈は決まって足を止めた。風に乗って漂ってくる濃厚で甘やかな香りは、彼女の心を遠い昔へと引き戻す。幼い頃、里奈の祖母は庭一面にユリを植えていた。祖母の背丈ほどに伸びた茎の先に大きな花が咲くと、家... 2025.09.15 面白い
面白い 風を抱きしめるオープンカー 春の風が街をやさしく撫でる午後、直樹はガレージのシャッターを開けた。そこには、鮮やかな赤のオープンカーが眠っている。十年前、父と一緒に中古で買った車だった。父は数年前に亡くなったが、この車だけは手放せずにいた。エンジンをかけると、低い音が胸... 2025.09.15 面白い
不思議 蒼き鱗の約束 山脈のさらに奥深く、雲より高い峰の影に「蒼き鱗のドラゴン」が棲んでいた。村人たちはその存在を古くから語り継ぎ、恐れと畏敬の念を抱いていた。火を吐けば森を焼き尽くし、翼を広げれば嵐を呼ぶ――そう言われてきたが、実際にその姿を見た者は少ない。た... 2025.09.13 不思議面白い
面白い カラン坊の約束 小さな町の雑貨屋の棚の隅に、一つの古びたブリキの貯金箱が置かれていた。色は少しくすみ、表面には細かな傷がついている。それでも、丸い体に描かれた赤と青の模様は、どこか懐かしい温もりを感じさせた。その貯金箱は、何十年も前に作られたものだった。子... 2025.09.11 面白い