その日、町の掲示板に一枚の紙が貼られていた。
「宝の地図、見つけました。ほしい人はどうぞ」
手書きの地図には、大きくこう書いてある。
“まちがいだらけの宝探し”
ぼくは学校の帰り道、友だちのミナトとその紙を見つけた。
「なんだこれ」
「宝探しだって。行ってみようよ」
地図はとても怪しかった。
道は曲がりくねり、川の位置はたぶん違う。
しかも赤いペンで何度も書き直されていて、ところどころに「たぶんこっち」「ここじゃないかも」と書いてある。
「これ、間違いだらけじゃない?」
「タイトル通りだね」
でも、だからこそ少しおもしろそうだった。
ぼくたちは地図の最初の場所へ向かった。
そこには「大きな松の木」と書いてあったけれど、あったのは小さな公園のベンチだった。
「もう間違ってる」
ベンチの下を見ると、小さなメモが貼ってあった。
“ごめん、松の木じゃなくてベンチでした。次はパン屋さんの角へ。”
ぼくたちは笑った。
「この人、ちゃんと謝ってる」
パン屋の角に行くと、また紙があった。
“パン屋じゃなくて花屋だった。ごめん。川の橋へ。”
ミナトが言った。
「この宝探し、ずっと謝ってない?」
橋へ行くと、今度はこう書いてあった。
“橋じゃなくて、その横の階段でした。本当にごめん。”
「この人、方向音痴なのかな」
でも、不思議なことに、ぼくたちはだんだん楽しくなっていた。
地図は間違いだらけで、まっすぐ進めない。
けれどそのたびに、知らない路地や、小さな店や、猫のいる庭を見つけた。
パン屋の裏の細道。
古いポストのある家。
いつも通らない坂道。
「この町って、こんなところあったんだ」
「ね」
最後の紙は、小さな丘の上のブランコに貼ってあった。
夕方の空が、少しオレンジ色になっている。
メモにはこう書かれていた。
“ここまで来た人へ。たぶんこれが最後です。”
ぼくたちはブランコの下を探した。
すると、クッキーの缶が埋まっていた。
中には、キャンディが三つと、手紙が入っていた。
手紙には、丸い字でこう書いてあった。
“宝は、途中で見つけた景色です。”
その下に、さらに続いていた。
“ぼくはこの町に引っ越してきたばかりで、地図を作ろうとしたけど、道をたくさん間違えました。でも、間違えるたびに面白い場所を見つけました。”
“だから宝探しにしました。”
ミナトがキャンディを一つ取った。
「なるほど」
ぼくも一つ取った。
丘の上から町が見える。
屋根の並び、遠くの川、夕方の光。
「宝ってさ」
ぼくが言う。
「もしかして、この町そのものかもね」
ミナトは笑った。
「間違えないと見つからない宝だね」
その帰り道、ぼくたちはわざと遠回りして帰った。
もしかしたら、またどこかに
“まちがいだらけの宝”
が落ちているかもしれないから。

