雨を止めるための七つのうそ

面白い

雨が降り続く街では、だれもが「ほんとう」を大切にしていた。
だからこそ、雨は止まなかった。
空は、ほんとうを重たく抱えすぎて、涙をこぼし続けているのだと、古い図書館の司書は言った。

「雨を止めるには、七つのうそが必要だよ」

ぼくは半信半疑のまま、その方法を教わった。
うそは、やさしくて、あたたかくて、誰かを少しだけ救うものでなければならないという。

――ひとつめのうそ。
帰り道、びしょ濡れで泣いている小さな子に、ぼくは言った。
「もうすぐ虹が出るよ」
空はまだ暗く、虹の気配なんてなかった。
それでも、その子は顔を上げて笑った。
すると、雨粒がひとつ、ふっと軽くなった気がした。

――ふたつめのうそ。
商店街で、売れ残った花を見つめるおばあさんに、ぼくは言った。
「この花、今日いちばんきれいですよ」
ほんとうは少ししおれていた。
でも、おばあさんはうれしそうに頬をゆるめた。
そのとき、軒先の雨音が、ほんの少しだけ遠くなった。

――みっつめのうそ。
友だちに傘を貸して、ぼくは言った。
「ぼくは濡れるのが好きなんだ」
ほんとうは寒くて仕方なかった。
でも、友だちは安心した顔で歩き出した。
ぼくの肩に落ちる雨は、どこかやわらかくなった。

――よっつめのうそ。
橋の下で、ひとりぼんやり川を見ている人に、ぼくは言った。
「ここ、星がよく見える場所なんですよ」
昼の雨空に星なんて見えない。
でもその人は、空を見上げた。
雲の向こうを想像するように。
雨は、少しだけ細くなった。

――いつつめのうそ。
自分自身に、ぼくは言った。
「大丈夫、ちゃんとできている」
ほんとうは不安でいっぱいだった。
それでも、その言葉は胸の奥で小さく灯った。
心の中の雨が、ひとしずく止んだ。

――むっつめのうそ。
図書館の司書に、ぼくは言った。
「ぼく、もう答えがわかりました」
ほんとうはまだ迷っていた。
でも司書はうなずいて、あたたかいお茶をくれた。
湯気がゆらいで、外の雨と溶けあうようだった。

そして――ななつめのうそ。

最後のうそは、いちばん難しかった。
空に向かって言うのだと、司書は教えてくれた。

ぼくは濡れたまま、広場の真ん中に立った。
雨はまだ降り続いている。
深く息を吸って、ぼくは空に話しかけた。

「もう泣かなくていいよ」

ほんとうは、空がなぜ泣いているのかなんて、ぼくにはわからない。
それでも、その言葉は、どこか確かに届いた気がした。

しばらくして、ぽつり、と音が変わった。

やがて、雨は静かにほどけるように止んだ。

雲の切れ間から、ひかりが差し込む。
遠くで、誰かが「あ、虹だ」と声をあげた。

ぼくは少しだけ考える。
七つのうそは、本当にうそだったのだろうか。

もしかしたらそれは、まだ起きていないほんとうを、先にやさしく置いていく言葉だったのかもしれない。

濡れた地面に、光が広がる。

空はもう、泣いていなかった。