星屑クリーニング店は、日が沈んでからが本番だ。
商店街のシャッターが半分ほど降りるころ、店の看板にだけ、やわらかな青白い光がともる。
昼間はただの古びたクリーニング店だが、夜になると、扉の向こう側で小さな宇宙がざわめきはじめる。
「いらっしゃいませ、今夜もよく汚れましたね」
店主の澪は、星を織り込んだエプロンをひらりと揺らして笑う。
彼女のもとに持ち込まれるのは、コートやシャツだけではない。
ほつれた流れ星、くしゃくしゃに丸まった月明かり、泣きすぎて曇った星座図。
夜空で役目を終えた光たちが、静かに順番を待っている。
店の奥では、洗濯機がごうごうと鳴っている。
だが中で回っているのは水ではなく、透明な時間だ。
古い記憶や、誰かのためについた傷が、やさしくほどけていく。
「おいおい、俺を強く回しすぎるなよ」
今夜いちばん騒がしいのは、派手に尾を焦がした彗星だ。
澪はくすりと笑いながら、焦げ跡に星蜜を塗り込む。
「あなた、願いを急ぎすぎたでしょう。地上の子どもが、まだ言い終わっていなかったみたいよ」
彗星はばつが悪そうに光をゆらした。
カウンターの隅では、小さなアルバイトのほたるが、星屑を丁寧に分別している。
白いものは新しい始まり用、青いものは約束の修復用、金色は、特別な夜のために。
ほたるはまだ一人前ではないが、誰よりも楽しそうに働く。
「澪さん、今夜は多いですね!」
「満月のあとは、いつもにぎやかよ。光は、はしゃぎすぎるの」
やがて、洗い終えた星たちは、物干し竿に吊るされる。
風は吹かないのに、きらきらと揺れ、店いっぱいに淡い銀の匂いが広がる。
外から見ると、古びた窓の奥で、祝祭のようなきらめきが踊っているだけだ。
閉店間際、ひとりの少年がそっと扉を開けた。手のひらには、ほとんど消えかけた小さな光。
「これ、もう直りませんか」
澪はしゃがみ込み、光をのぞき込む。
それは、誰かと交わした約束の残り火だった。
「大丈夫。少し洗って、少し縫えば、また瞬ける」
洗濯機がやさしく回りはじめる。
少年は店内のにぎやかな光景を、まぶしそうに見つめている。
すべての光を磨き終えるころ、東の空がわずかに白む。
星屑クリーニング店の看板は、すっと輝きを消す。
吊るされた星たちは、ひとつずつ夜空へ帰っていく。
最後に残ったのは、洗い立ての約束の光。
少年の手の中で、それは確かに瞬いた。
商店街が目を覚ますころ、店はまた、ただの静かなクリーニング店に戻っている。
けれど、昨夜のにぎわいは、ほこりのように、どこかに残っている。
今夜もまた、汚れた光たちが帰ってくるだろう。
星屑クリーニング店は、にぎやかな夜を待ちながら、静かに朝を干している。


