ちいさなスズメの大きな冒険

冒険

春の朝、町の公園の大きなケヤキの木の上で、一羽のスズメのヒナが生まれました。
名前は「チビ」。
兄弟たちと一緒に巣の中で育ちましたが、チビは少し体が小さく、飛ぶのが苦手でした。
兄弟たちは次々と羽ばたきを覚え、大空へ飛び立っていきましたが、チビだけはなかなか巣を出ることができませんでした。

「早く飛べるようにならなきゃ……」

ある日、チビは勇気を出して枝の上に立ちました。
風が頬をなで、下を見下ろすと公園のベンチや遊具が遠くに見えます。
胸がドキドキしながらも、思い切って羽を広げました。

バサッ……!

しかし、うまく飛べず、くるくると回りながら落ちてしまいました。

「いたた……」

地面に転がったチビは、少し涙目になりながらも立ち上がりました。
そこへ、一羽のカラスが近づいてきました。

「おや? こんなところにチビスズメがいるとはねぇ」

チビはびっくりして、あわてて草むらに隠れました。
カラスは少し笑って、「飛ぶのが苦手なのかい?」と聞きました。

「うん……でも、いつか飛べるようになりたいんだ」

するとカラスは、「そいつはいい。だったら公園の外を見に行くといいぞ。
もっと広い世界があるんだから」と言いました。

「広い世界……?」

チビは興味を持ちました。
でも、巣の外に出るのはとても怖いことでした。
しかし、兄弟たちはもうみんな飛び立ってしまったし、自分もいつまでもここにいるわけにはいきません。

「よし、ぼくも行ってみる!」

勇気を振り絞ったチビは、公園の外へと歩き出しました。
飛ぶのはまだ怖いので、小さな足でぴょんぴょんと跳ねながら進みます。
公園の柵を越え、道路を渡り、小さな街の路地へ入りました。

初めて見る世界は、とても賑やかでした。
自転車が走り、人々が歩き、猫がのんびりと昼寝をしていました。
チビは夢中で町を探検しましたが、そのうちお腹が空いてきました。

「どうしよう……エサを探さなきゃ」

そのとき、パン屋さんの前にたくさんのパンくずが落ちているのを見つけました。
うれしくなったチビは急いでついばみました。

「おいしい!」

でも、食べているうちに、後ろから何かが近づいてくる気配を感じました。
振り向くと、そこには一匹の大きな猫が!

「やばい!」

チビは慌てて走りました。しかし猫はすばやく追いかけてきます。

「このままじゃ捕まっちゃう……!」

そのとき、チビの心に決意が生まれました。

「飛ばなきゃ!」

思い切って羽を広げ、地面を蹴りました。

バサッ!

チビの体はふわりと浮かびました。
最初はぎこちなかったけれど、羽ばたくうちにどんどん高さを増していきました。
下を見ると、猫は「しまった!」という顔をしていました。

「飛べた……!」

嬉しくて、チビは何度も羽ばたきました。
空を自由に飛ぶ感覚は、今までにない喜びでした。

そのまま町の上を飛び続け、公園へと戻りました。
ケヤキの木の上に降りると、カラスが待っていました。

「おや、やっと飛べたようだな」

「うん! ぼく、飛べたよ!」

チビは胸を張りました。
もうあの頃の弱虫なヒナではありません。
これからは自分の力で、どこへでも飛んでいけるのです。

こうして、ちいさなスズメの大きな冒険は、新たな始まりを迎えました。