昔々、ある小さな村に一人の貧しい男が住んでいました。
男は毎日山で薪を取り、細々と生計を立てていましたが、生活は苦しく、寒い冬が来るたびに少ない食糧や暖かい衣服が彼の悩みの種でした。
ある冬の日、男は山へ薪を取りに行った帰り、雪の中で苦しそうに鳴いている一羽の鶴を見つけました。
その鶴は雪に足をとられ、羽が凍りついて動けなくなっていました。
男はかわいそうに思い、鶴を抱きかかえて家に連れて帰り、温かい火のそばで手当てをしました。
鶴は男の手厚い看護のおかげで元気を取り戻し、数日後、男に向かって深く頭を下げると空へと飛び立ちました。
男は「元気になってよかった」と、ただそれだけを思い、その後はまたいつもの貧しい生活に戻りました。
それから数日が過ぎたある夜、男の家に見知らぬ美しい若い女が訪ねてきました。
女は男に向かって「旅の途中ですが、どうか一晩泊めていただけませんか?」と頼みました。
男は快く了承し、寒さに震える女を家に迎え入れました。
翌朝、女は男にこう告げました。
「私はここでお手伝いがしたいのです。どうか私をこの家に置いてください。」驚く男でしたが、女の優しい瞳に惹かれ、彼女の願いを受け入れました。
こうして、男と女は一緒に暮らすことになり、少しずつ男の生活も温かく、潤いのあるものになっていきました。
しばらくして、女は男に一つのお願いをしました。
「私が織物を織るので、その間、決して部屋を覗かないでください。」
男は不思議に思いながらも、彼女の願いを尊重し、約束しました。
女は一日中部屋にこもり、織物を織り続けました。
三日三晩が過ぎ、ようやく女が姿を現すと、男に一枚の美しい反物を手渡しました。
それはまるで雪のように白く、光り輝いており、今まで見たこともないほどの美しさでした。
「これを町へ持って行けば、高く売れるでしょう」と女は言いました。
男は言われた通りに町へ行き、反物を売りに出しました。
町の商人たちはその見事な反物に目を見張り、男は思いもよらぬ大金を手にすることができました。
これで生活も少し楽になると、男は心から感謝しました。
しかし、男はそれでも満足せず、もっと反物が欲しいと欲を出してしまいます。
再び女に反物を織ってもらうよう頼むと、女は少し悲しそうにうなずき、再び部屋に閉じこもりました。
しかし、男の心には今までなかった好奇心が芽生えていました。
「どうやってこんなに美しい織物を織っているのだろう」と気になり、とうとう約束を破って部屋を覗き見てしまいました。
すると、そこには見慣れた美しい女の姿はなく、代わりに一羽の鶴がいました。
鶴は自分の羽を一本一本引き抜き、それを織り込んで反物を作っていたのです。
驚きと後悔に打ちのめされた男は、「すまない、すまない」と叫びましたが、鶴は悲しそうな目で男を見つめると、一言も言わずにそのまま窓から飛び立っていきました。
それ以来、男のもとに女は現れることはありませんでした。
鶴の姿も見えなくなり、男はただ静かに、彼女を失った悲しみに暮れる日々を送りました。
彼の心にはいつまでも、あの美しい鶴の姿が深く刻まれていました。
鶴の恩返しの物語は、男が彼女の心を裏切ったことで、かけがえのないものを失ってしまったという教訓として語り継がれるようになりました。