彼女は深夜に目を覚ました。
薄暗い部屋の中、時計の針は午前3時を指している。
カーテンの隙間から差し込む月光が床に細い線を描き、静かな部屋の中に不気味な影を落としていた。
何かが違う、と彼女は感じた。
どこかで微かな音がする。
それはまるで何かが這い回っているような音だった。
彼女は起き上がり、ベッドサイドのランプを点けた。
柔らかな光が部屋を照らし出すが、音の正体は分からない。
心臓が鼓動を速めるのを感じながら、彼女は音の出所を探し始めた。
音は廊下から聞こえてくるようだった。
彼女はそっとベッドを離れ、裸足のままカーペットの上を歩いた。
廊下に出ると、音はますますはっきりと聞こえてきた。
まるで何かが壁を引っ掻いているような音だった。
「誰かいるの?」彼女は震える声で問いかけた。
しかし、返事はない。
恐怖が胸を締め付ける中、彼女は勇気を振り絞って廊下の奥へと進んだ。
廊下の先には古びた屋根裏部屋への階段があった。
音は確かにそこから聞こえてくる。
彼女は躊躇しながらも、階段を上り始めた。
足音が木製の階段に響くたびに、音もますます大きくなっていく。
やがて、彼女は屋根裏部屋のドアの前に立った。
ドアの向こうからは、明らかに何かが動いている音が聞こえてくる。
彼女は震える手でドアノブに手をかけた。
冷たい金属が手のひらに伝わり、彼女の不安を一層煽った。
深呼吸をして、彼女はドアを押し開けた。屋根裏部屋の中は真っ暗だった。
彼女は懐中電灯を取り出し、光を当てた。
その光の先に、彼女は信じられない光景を目にした。
床一面に蜘蛛の巣が張り巡らされ、その中央に巨大な影がうごめいていた。
それはまるで、人間の形をした何かだった。
彼女は息を呑み、その場に立ち尽くした。
その時、影がゆっくりとこちらに向かって動き始めた。
彼女は恐怖で体が動かなくなり、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
影が近づくにつれ、それが何であるかが徐々に明らかになってきた。
それは人間の姿をしていたが、肌は青白く、目は真っ黒な穴のようだった。
口元には不気味な笑みが浮かんでいた。
「助けて…」彼女はか細い声でつぶやいた。
しかし、その声は闇に吸い込まれたかのように響かなかった。
影はさらに近づき、彼女の目の前に立ち止まった。
その瞬間、彼女は凍りついた。
影の目は彼女をじっと見つめ、その口から低い声が漏れた。
「ここに来たのか…」
その言葉と同時に、彼女の意識は暗闇に飲み込まれた。
気がつくと、彼女は再び自分のベッドに横たわっていた。
周囲は静まり返っており、まるで何事もなかったかのようだった。
彼女は夢だったのだろうかと自問しながら、起き上がった。
しかし、彼女の手には冷たい汗がにじみ出ており、心臓はまだ激しく鼓動していた。
彼女は恐る恐る屋根裏部屋に向かい、再び階段を上った。
しかし、屋根裏部屋のドアは固く閉ざされており、開けることができなかった。
彼女は仕方なく元の部屋に戻り、再びベッドに横たわった。
それから数日間、彼女は奇妙な夢を見続けた。
毎晩、同じように音が聞こえ、屋根裏部屋に導かれる夢だった。
しかし、現実では何も変わらなかった。
屋根裏部屋のドアは開かず、音も聞こえなかった。
しかし、ある晩、彼女は再び音に目を覚ました。
今度は夢ではない。
音は現実に存在していた。
彼女は恐怖に駆られながらも、再び屋根裏部屋に向かった。
ドアはいつものように閉ざされていたが、今回は何かが違った。
彼女が手をかけると、ドアはゆっくりと開いた。
屋根裏部屋の中には、彼女が前に見た影が再び現れた。
それは彼女に向かって静かに手を差し伸べた。
彼女はその手を取るべきかどうか、迷いながらも、一歩踏み出した。
その瞬間、影は彼女を引き寄せ、闇の中へと消えていった。
次の日、彼女は姿を消していた。
部屋は静まり返り、屋根裏部屋のドアは再び固く閉ざされていた。
彼女の存在はまるで最初からなかったかのように、誰も彼女のことを思い出さなかった。
ただ、夜になると、時折、廊下から奇妙な音が聞こえてくることがあるという。
そして、その音を聞いた者は、二度と戻ってこなかった。