面白い くまのぬいぐるみと、春の光 小さなアパートの一室に、咲良(さくら)は住んでいた。部屋の隅には、やや色あせた茶色いくまのぬいぐるみが、ちょこんと座っている。名前は「コロン」。高校生のころ、祖母が誕生日に贈ってくれたものだった。「もう大人なのに、ぬいぐるみなんて……」そう... 2025.05.05 面白い
面白い 風を泳ぐ日 春の終わり、町のはずれにある小さな川沿いの家に、古びた鯉のぼりがあった。布は少しくすみ、尾びれには何ヶ所かほつれも見える。けれど、晴れた日には、赤、青、黒、色とりどりの鯉たちが、風に乗って空を泳いだ。その家には、幼い頃から病弱だった少年・海... 2025.05.04 面白い
ホラー 水底からの呼び声 私の通う高校には、古びた屋内プールがある。夏でも水は冷たく、壁には黒ずんだカビがこびりつき、天井の蛍光灯はところどころ点滅していた。最近では新設されたスポーツセンターに生徒が流れ、ここを使う者はほとんどいない。それでも、私はこの場所が嫌いじ... 2025.05.04 ホラー
面白い 春風に泣く 春の陽射しは、すべてを祝福するように街を包み込んでいた。駅前の広場には、桜がほころび、子どもたちの笑い声が風に乗る。だが、紺野美咲にとって、それは呪いの季節だった。マスク、メガネ、長袖。完全防備でも、彼女の鼻はぐずぐずと鳴り続ける。目は赤く... 2025.05.04 面白い
食べ物 春の約束 祖母が亡くなった春、私は実家の縁側で、一人桜を見上げていた。風が吹くたびに、はらはらと花びらが舞い落ちる。その景色は、幼いころ祖母に手を引かれて歩いた、あの日の参道を思い出させた。「今年も、桜餅を作ろうな」毎年、桜が咲くころになると、祖母は... 2025.05.03 食べ物
面白い チョコレートドーナツの約束 陽が落ちかけた商店街を、さゆりは小走りで駆け抜けた。駅前のベンチに座るあの人の手には、いつもチョコレートドーナツがある。今日も、きっと。「間に合え、間に合え……!」さゆりが目指すのは、商店街のはずれにある小さなパン屋「サンリオ」。焼きたての... 2025.05.03 面白い食べ物
面白い クッションの森 佐伯奈々は、クッションが好きだった。それはもう、普通の「好き」ではない。ソファに並べるための数個では足りず、気がつけば部屋中が大小さまざまなクッションで埋まっていた。丸いもの、四角いもの、星型、ハート型、動物の形をしたもの。ふわふわ、もふも... 2025.05.02 面白い
面白い 湯煙に宿るもの 冬の終わりが見え始めた三月のある日、早川千紘は一人、小さな山間の温泉地に降り立った。雪はまだ残っていたが、空気にはわずかな春の香りが混じり始めていた。千紘はとにかく「温泉」が好きだった。熱すぎず、ぬるすぎず、身体の芯からゆっくりと温まってい... 2025.05.02 面白い
面白い 土に還る男 会社を早期退職して半年、佐々木誠一(ささき せいいち)は毎日が退屈だった。若い頃から働きづめで、休みの日さえ何かしら予定を入れていた。だが、定年より少し早く会社を辞めてみると、時間の使い方がまるでわからなくなった。朝起きて、コーヒーを淹れて... 2025.05.01 面白い
食べ物 一杯の奇跡 昼下がりの商店街、風に乗って漂ってくる魚介の香りに、佐伯茜(さえき・あかね)は無意識に鼻をひくつかせた。気がつけば、足は自然と馴染みの製麺所へと向かっている。「茜ちゃん、また来たの? 今度は何ラーメン試す気だい?」奥から顔を出したのは、店主... 2025.05.01 食べ物