動物 はじめてのうみ 海の青さが朝日に照らされて、キラキラと輝いていた。岩の隙間に、小さなふわふわのかたまりがひとつ。そう、それは生まれたばかりの赤ちゃんラッコのリオだった。リオはお母さんラッコのお腹の上で、ぽかぽかと日差しを浴びながら、ゆっくりと目を開けた。海... 2025.07.13 動物
食べ物 椿屋(つばきや)の灯り 古びた木造家屋の前に、小さな白い提灯が揺れている。そこには墨で「和食処 椿屋」と書かれていた。暖簾をくぐると、木の香りがふわりと鼻をくすぐる。カウンター七席と、小上がりがひとつ。決して大きくはないが、どこか懐かしく、落ち着く空間だ。この店を... 2025.07.13 食べ物
面白い 銀色の夢、青の地球 杉山遼は、幼いころからずっと、宇宙服に憧れていた。初めて宇宙の映像を見たのは、小学一年生の冬。テレビに映る国際宇宙ステーションと、そこに滞在する宇宙飛行士の姿に、息をのんだ。無重力の中でふわふわと漂う彼らの背中にある白い宇宙服――分厚く、機... 2025.07.12 面白い
面白い マリーゴールドの手紙 祖母の庭には、毎年夏になるとマリーゴールドが咲き誇った。橙と黄色の混ざったその花たちは、まるで太陽の欠片のようにまぶしく、子どもの頃の私は、それを見るたびに心が浮き立ったものだった。高校を卒業し、東京の大学に進学した私は、地元に帰ることが少... 2025.07.12 面白い
面白い バケットハットと夏の追憶 蒼井遥(あおいはるか)は、バケットハットが好きだった。きっかけは、小学五年生の夏休み。母親が近所の手芸教室で作ってくれた、白地にひまわり模様のバケットハットが始まりだった。それを被ると、夏の匂いが一気に広がった気がした。照りつける太陽、アス... 2025.07.11 面白い
食べ物 透明なスープの向こう側 小山涼太(こやまりょうた)は、塩ラーメンを愛してやまない男だった。こってり濃厚な豚骨も、甘辛い味噌も悪くはない。だが、涼太の心を掴んで離さないのは、あの澄んだ黄金色のスープと、ほんのりとした塩のやさしさ。食べるたびに心が洗われるようで、身体... 2025.07.11 食べ物
食べ物 一羽の余韻 朝五時。まだ陽も昇りきらない薄明のキッチンに、小さな音が響く。水を満たした大鍋に鶏ガラを入れる音だ。続けて、ネギの青い部分、生姜の皮、少量の酒が鍋に投入される。「今日もいい香りが出るかな」三浦幹夫(みきお)、六十七歳。定年退職後に始めた“趣... 2025.07.10 食べ物
面白い 風の色はミントグリーン 夏が近づくと、風の中に微かにミントの香りが混じる。それは彼女の記憶と結びついていた。佐倉遥(さくら・はるか)は都会の喧騒に疲れ、郊外の小さな街に引っ越してきた。職場はリモート勤務に切り替わり、必要最低限の人との関わりだけで済む。心をすり減ら... 2025.07.10 面白い
食べ物 黒糖日和 陽が落ちかけた午後、古い商店街の角にひっそりと佇む和菓子屋「くるみ堂」には、今日もひとりの男が足を運んだ。彼の名は水野誠(みずの まこと)、五十五歳。勤めていた出版社を早期退職してから、毎日のようにこの店に立ち寄るようになった。目的はただひ... 2025.07.09 食べ物
面白い 風にゆれるポピーの庭 春の終わり、風が柔らかく頬をなでる頃になると、町外れの古い洋館の庭には、一面に赤いポピーの花が咲き乱れる。洋館に住むのは、七十を過ぎた女性・和子だった。和子は毎年、庭のポピーが咲くのを誰よりも楽しみにしていた。朝起きてすぐ、まだ露をまとった... 2025.07.09 面白い