動物

はじめてのうみ

海の青さが朝日に照らされて、キラキラと輝いていた。岩の隙間に、小さなふわふわのかたまりがひとつ。そう、それは生まれたばかりの赤ちゃんラッコのリオだった。リオはお母さんラッコのお腹の上で、ぽかぽかと日差しを浴びながら、ゆっくりと目を開けた。海...
食べ物

椿屋(つばきや)の灯り

古びた木造家屋の前に、小さな白い提灯が揺れている。そこには墨で「和食処 椿屋」と書かれていた。暖簾をくぐると、木の香りがふわりと鼻をくすぐる。カウンター七席と、小上がりがひとつ。決して大きくはないが、どこか懐かしく、落ち着く空間だ。この店を...
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銀色の夢、青の地球

杉山遼は、幼いころからずっと、宇宙服に憧れていた。初めて宇宙の映像を見たのは、小学一年生の冬。テレビに映る国際宇宙ステーションと、そこに滞在する宇宙飛行士の姿に、息をのんだ。無重力の中でふわふわと漂う彼らの背中にある白い宇宙服――分厚く、機...
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マリーゴールドの手紙

祖母の庭には、毎年夏になるとマリーゴールドが咲き誇った。橙と黄色の混ざったその花たちは、まるで太陽の欠片のようにまぶしく、子どもの頃の私は、それを見るたびに心が浮き立ったものだった。高校を卒業し、東京の大学に進学した私は、地元に帰ることが少...
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バケットハットと夏の追憶

蒼井遥(あおいはるか)は、バケットハットが好きだった。きっかけは、小学五年生の夏休み。母親が近所の手芸教室で作ってくれた、白地にひまわり模様のバケットハットが始まりだった。それを被ると、夏の匂いが一気に広がった気がした。照りつける太陽、アス...
食べ物

透明なスープの向こう側

小山涼太(こやまりょうた)は、塩ラーメンを愛してやまない男だった。こってり濃厚な豚骨も、甘辛い味噌も悪くはない。だが、涼太の心を掴んで離さないのは、あの澄んだ黄金色のスープと、ほんのりとした塩のやさしさ。食べるたびに心が洗われるようで、身体...
食べ物

一羽の余韻

朝五時。まだ陽も昇りきらない薄明のキッチンに、小さな音が響く。水を満たした大鍋に鶏ガラを入れる音だ。続けて、ネギの青い部分、生姜の皮、少量の酒が鍋に投入される。「今日もいい香りが出るかな」三浦幹夫(みきお)、六十七歳。定年退職後に始めた“趣...
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風の色はミントグリーン

夏が近づくと、風の中に微かにミントの香りが混じる。それは彼女の記憶と結びついていた。佐倉遥(さくら・はるか)は都会の喧騒に疲れ、郊外の小さな街に引っ越してきた。職場はリモート勤務に切り替わり、必要最低限の人との関わりだけで済む。心をすり減ら...
食べ物

黒糖日和

陽が落ちかけた午後、古い商店街の角にひっそりと佇む和菓子屋「くるみ堂」には、今日もひとりの男が足を運んだ。彼の名は水野誠(みずの まこと)、五十五歳。勤めていた出版社を早期退職してから、毎日のようにこの店に立ち寄るようになった。目的はただひ...
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風にゆれるポピーの庭

春の終わり、風が柔らかく頬をなでる頃になると、町外れの古い洋館の庭には、一面に赤いポピーの花が咲き乱れる。洋館に住むのは、七十を過ぎた女性・和子だった。和子は毎年、庭のポピーが咲くのを誰よりも楽しみにしていた。朝起きてすぐ、まだ露をまとった...