冒険

ポメの森の大冒険

ふわふわの毛に包まれた小さなポメラニアン、ココは、町はずれの一軒家で暮らしていた。ココは飼い主のさくらが大好きだったが、ひとつだけ心に秘めた夢があった。それは――家の外の世界を、自分の足で歩いてみること。いつもは庭までしか出してもらえない。...
食べ物

朝焼けとフランスパン

澄んだ朝の空気を吸い込むと、心まで清められる気がした。高橋咲良は、まだ街が目覚めきらない午前五時、ひとりパン屋の扉を開ける。「おはようございます」静かに挨拶をして、咲良は厨房の電気をつける。彼女が焼くのはフランスパン。それだけ。クロワッサン...
面白い

セーヌに浮かぶ手紙

七月の朝、アンヌはサン・ルイ島のカフェに座って、いつものカフェ・クレームをすすった。目の前には、朝焼けに染まるセーヌ川。ノートルダムの尖塔が川面に映り、船がゆっくりと通り過ぎる。アンヌは観光客ではない。二年前に日本から越してきて、パリの古本...
食べ物

ペロペロキャンディとミユの夏

ミユは子どもの頃から、ペロペロキャンディが好きだった。どんなに大人になっても、あのカラフルでぐるぐると渦を巻いた飴を見るだけで、心が躍った。幼い頃、祖母の家に遊びに行くたび、ミユは町角の駄菓子屋に立ち寄った。そこで祖母が一つだけ買ってくれる...
面白い

ガラスの向こうの未来

小さな町の図書館に、謎めいた本があった。表紙には「元素と人類」とだけ書かれ、誰が借りたのかもわからない古びた本。中学二年の圭介は、たまたま手に取ったその本に心を奪われた。見たこともない周期表、化学式、そして原子の構造図。無数の粒が集まり、形...
食べ物

黒の粒の美学

黒瀬翔子(くろせしょうこ)は、スパイス専門店「胡椒館(こしょうかん)」の店主だ。東京・下北沢の路地裏にひっそりと構えるこの店は、看板も目立たず、通りすがりの人にはカフェかギャラリーのように見える。それでも、一歩中に入れば、所狭しと並んだ瓶詰...
ホラー

鏡の奥の家族

春の終わり、大学の新生活にも慣れ始めた頃。沙耶(さや)は、古びたワンルームマンションに引っ越した。安さと駅近が決め手だったが、内見のとき、やけに大きな姿見が壁に固定されているのが気になった。「これは前の住人が置いていったものですが、外そうと...
面白い

三角屋根の向こうに

幼い頃、奈央は母の読んでくれる絵本が大好きだった。特にお気に入りだったのは、一冊の外国の絵本。緑の草原にぽつんと建つ、白い壁と赤い三角屋根の家。その家には大きな窓があり、光があふれ、煙突からはいつも温かい煙が立ちのぼっていた。「こんな家に住...
食べ物

パンの香りがする家

佐和子(さわこ)は四十歳を過ぎたあたりから、家でパンを焼くようになった。もともと料理は嫌いではなかったが、毎日の食事作りに追われるうち、ただの「義務」になっていた。そんなある日、近所のパン屋で買った焼きたてのくるみパンを口にした瞬間、胸の奥...
面白い

風の音が聞こえる

中村陸(なかむら・りく)、二十歳。彼は物心ついたときから空手をやっていた。父は町道場の師範で、少年の頃は家でも道場でも常に父の厳しい指導があった。泣いた日も数知れない。だが、拳と足でぶつかり合うあの瞬間にだけ、自分の心がすべて解き放たれるよ...