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ミニチュアに宿る世界

木村絵里は、小さなものに心を奪われる人だった。小学校のころから、消しゴムやボタンを集めては机の中に並べ、ひとりで想像の街を作っていた。周りの友達がリカちゃん人形やカードゲームに夢中になっても、絵里の関心はその付属品――小さな机や小物のほうに...
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月影に映る願い

ある町のはずれ、小さな路地裏にひっそりと佇む銀細工の工房があった。看板には「月影工房」と刻まれ、昼間でも店内はどこか薄暗く、棚には光を抑えたような不思議な輝きを放つ銀のアクセサリーが並んでいた。この工房を営んでいるのは、初老の職人・佐久間だ...
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沢に舞う光の約束

山あいの小さな集落に、夏の夜だけ特別な光景が広がる沢があった。日が沈み、あたりが群青色に染まるころ、沢沿いの草むらからふわりと光が舞い上がる。ホタルだ。それも、町ではほとんど見かけなくなったゲンジボタルが群れをなし、まるで星が地上に降りてき...
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夕焼け坂の約束

町の西側には、ゆるやかにのびる長い坂道がある。地元の人たちは、それを「夕焼け坂」と呼んでいた。夕暮れ時になると、坂の上から町全体が茜色に染まり、海の向こうまでオレンジ色の光が広がっていく。それは、まるで世界が一度だけ息を潜め、時間が止まった...
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ラベンダーティーの午後

その日、空は淡い水色にけぶり、春先の柔らかな風が庭を撫でていた。美咲は小さな木のテーブルにティーポットを置き、カップに静かに注いだ。湯気とともに、ふわりとラベンダーの香りが漂う。紫色の小花を思わせるその香りは、どこか懐かしく、胸の奥の柔らか...
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緑茶の香りと急須

祖母の家に行くと、いつも台所の隅に小さな急須があった。深い緑色で、表面には細かいひび模様――貫入が走っている。それは祖母が若い頃、嫁入り道具として持ってきたものだという。取っ手は少し欠け、注ぎ口も丸みを失っていたが、祖母は「まだまだ使えるよ...
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風とペダルとわたし

春の匂いが漂う土曜日の朝。空は透き通るような青色で、雲はまるでゆっくりと流れる綿菓子のようだった。中学二年生の美咲は、ガレージに置かれた自転車の前で胸を高鳴らせていた。去年の誕生日に両親からもらった、淡いミントグリーンのクロスバイク。冬の間...
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流れ星の約束

八月の夜、町の灯りが届かない丘の上に、彩夏は毛布を敷いて寝転がっていた。昼間は蝉がうるさいほど鳴いていたが、今は虫の声と遠くの川のせせらぎだけが耳に届く。頭上には、満天の星。空気が澄んでいるせいか、手を伸ばせばつかめそうなほど輝いていた。「...
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白の記憶

古いアトリエの奥、埃をかぶった木製トルソーに、一着のウェディングドレスがかかっていた。長い年月を経て色はわずかにアイボリーへと変わっているが、胸元の繊細なレースや裾の刺繍は、まだ息をのむほど美しい。佐倉美咲は、そのドレスを見上げて立ち尽くし...
不思議

月映(つきばえ)の池

――村のはずれに、小さな池がある。周囲をぐるりと囲むように柳が立ち、風が吹くたびに細い枝が水面をくすぐる。池は深くも広くもないが、不思議と一年中、水が澄んでいた。夏の終わりには白い睡蓮が咲き、冬でも氷が厚く張らない。その池のそばに、よく座っ...