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優しさの溶けるバスソルト

陽が沈みかけた夕暮れ時、奈緒はお気に入りのバスソルトを手に取り、湯船にそっと落とした。琥珀色の結晶がじわじわと溶けていくとともに、ラベンダーと柑橘の香りがふわりと広がる。仕事の疲れを癒やすための、彼女だけの大切な儀式だった。奈緒は昔からお風...
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秘密基地のふたり

狭いところが好きな男がいた。名前は高橋啓太(たかはしけいた)、32歳。彼は子供の頃から、押し入れの中や机の下、ベッドの隙間のような狭い場所に入り込むのが大好きだった。そこは、彼にとって落ち着く特別な空間だった。会社では営業職についていたが、...
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家政婦の秘密

私は佐藤美咲(さとう みさき)、三十五歳。家政婦として働き始めて十年が経とうとしている。派遣される家はさまざまで、裕福な家庭もあれば、少し事情を抱えた家庭もある。けれど、私の仕事はただひとつ。依頼された家を清潔に保ち、必要なことを黙々とこな...
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風の醸造所

山あいの小さな町に、風の醸造所と呼ばれるビール工房があった。正式な名前は「KAZE BREWERY」。だが町の人々も、旅人も、いつしか「風の醸造所」と呼ぶようになった。理由は、そこから生まれるビールが、まるで風そのものだったからだ。醸造所を...
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シールの向こう側

陽が傾きかけた放課後の教室。机の引き出しから取り出した小さなアルバムを、花音(かのん)はそっと開いた。そこには色とりどりのシールがぎっしり貼られている。動物、スイーツ、キラキラの宝石、アイドルの笑顔、キャラクターたち……。小学校1年生の頃か...
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夜空に咲くサーカス

幼い頃、蓮(れん)は初めてサーカスを見た。町にやってきた巡業サーカス。テントの中に広がる夢のような世界。空中ブランコを飛ぶ人、火を吹く男、奇跡のように体を折り曲げる女性。動物たちもにこやかに芸を披露し、ピエロたちが笑いを誘う。蓮は目を輝かせ...
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硝子のティアラ

古びたアパートの一室で、神崎美咲は今日も鏡に向かって微笑んでいた。手作りのティアラを頭に乗せ、目を閉じる。金の刺繍が施されたドレスを纏う自分を想像しながら、息を吸う。舞踏会のシャンデリアの輝き、群がる貴族たちの拍手喝采。すべては想像の世界。...
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七輪と生きる男

小田嶋正一(おだじましょういち)は、都心から少し離れた古い平屋に住んでいる。仕事は特に決まっておらず、地元の商店街でアルバイトをしたり、知り合いの畑を手伝ったりしながら、その日暮らしの生活を送っている。金はないが、不思議と焦りはない。正一に...
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小麦畑のエルダ

エルダは幼い頃から小麦畑が好きだった。それは、ただの風景ではなく、彼女にとって特別な場所だった。春になれば新芽が顔を出し、初夏には青く波打つように揺れ、やがて黄金色の海へと変わる。空に向かって真っ直ぐ伸びる一本一本が、まるでエルダの心を映し...
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光に生きる

高橋隼人(たかはし・はやと)は、35歳の会社員だ。職業はごく普通の事務職だが、隼人には誰にも言えないほど深いこだわりがあった。それは「照明」だ。家の照明、光の角度、色温度、光の質感——それら全てに、隼人は異常とも言えるほどの情熱を注いでいた...