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夏空にとける

七月の終わり、陽炎のゆらめく公園に、色とりどりの水ふうせんが並んでいた。りんご飴のように赤、ラムネ瓶みたいな青、透きとおる緑。手に取るとひんやりしていて、指の間から水の感触が逃げていく。小学五年生の陽菜は、しゃがみこんでその一つをじっと見つ...
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藁と生きる

山あいの村に、茂吉という男がいた。茂吉は幼いころから藁が好きでならなかった。田んぼから刈り取られた稲のにおい、手に触れたときのやわらかさ、束ねたときの頼もしさ。村の子どもたちが川で魚を追いかけて遊ぶ頃、茂吉はひとり、納屋に積まれた藁の山に潜...
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静寂を包む香

佐織は小さな木箱を開けた。中には整然と並んだ細長い棒状のお香や、丸く固められた練り香が入っている。色合いは地味だが、それぞれ微妙に違う香木や花の香りを宿している。彼女にとって、それは日常を整えるための宝物だった。仕事から帰ると、まずお香を選...
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レモンジンジャーの午後

大学を卒業してから、私はずっと同じ街に住んでいる。仕事は順調といえば順調だけれど、心のどこかにぽっかりとした空洞があった。毎日は繰り返しのようで、休日も家に閉じこもり、特別な趣味もなく過ぎていく。そんな私に、小さなきっかけを与えてくれたのは...
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きらめきの小箱

小さいころ、麻衣は母の裁縫箱を覗くのが好きだった。中には糸や針だけでなく、ガラスやプラスチックでできた色とりどりのビーズが詰まった小瓶がいくつも並んでいた。ふたを開けると、ころころと転がる音がして、それだけで胸がわくわくした。母はよく言って...
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静かな熟成の中で

春が過ぎ、梅の実が青く膨らむ頃になると、遥はそわそわし始める。庭の片隅に植えられた梅の木は、毎年たっぷりと実をつけ、その一つひとつを摘み取るのが彼女の楽しみだった。六月の湿った空気の中、かごを手に梅の枝を見上げる。青々とした果実が陽を浴びて...
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イランイランの香りに包まれて

休日の午後、涼子は小さなアロマランプに火を灯した。オイル皿に数滴落としたのは、イランイランの精油。ふわりと甘く、どこかエキゾチックで、同時に安らぎを与えるような香りが部屋に広がっていく。目を閉じると、潮風が吹く南の島の景色が脳裏に浮かんだ。...
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月明かりの子守唄

ある村の外れに、小さな家がありました。そこには若い母親と、生まれて間もない赤ん坊が暮らしていました。父親は遠い町へ働きに出ていて、母と子だけで夜を過ごすことが多かったのです。夜になると、赤ん坊は不思議と目をぱっちり開け、泣き声をあげることが...
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空を渡る約束

小さな地方空港の片隅に、今はもう飛ばなくなった古い飛行機が展示されていた。銀色の機体はところどころ塗装が剥げ、翼には鳥の羽根が張り付いている。だが、その姿には不思議な温かさが宿っていた。春斗はその飛行機を見るのが好きだった。祖父に連れられて...
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音の繭

大学進学を機に一人暮らしを始めた健太は、引っ越し荷物の中に父から譲り受けた古いヘッドフォンを入れていた。黒い革が少し剥がれ、金属のフレームには細かな傷が走っている。新品のような輝きはとうになかったが、耳を覆うと不思議と世界が静まり返り、音楽...