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海の声を聞く人

潮の香りが混じる風が、朝の浜辺を優しく撫でていた。港町のはずれに住む青年・遥人(はると)は、毎朝決まって海辺の岩に腰を下ろし、水平線を眺めていた。何をするでもなく、ただ、波の音に耳を澄ませる。遥人が海を好きになったのは、幼い頃、祖父に連れら...
冒険

ぬいぐるみ探検隊と消えた月のかけら

夜の静けさが町を包むころ、子ども部屋の本棚の上に置かれたぬいぐるみたちは、そっと目を開けた。そこはぬいぐるみ王国「クッションランド」。人間たちが眠るときだけ、ぬいぐるみたちは自由に動けるのだ。その日、王国に異変が起きていた。空に浮かぶぬいぐ...
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筆先に咲く花

陽向(ひなた)は、小さな田舎町に暮らす二十五歳の女性だった。小学校の頃から、授業中でもノートの端に絵を描いては先生に叱られるような子だった。けれど、その絵にはどこか温かく、見た人をホッとさせる力があった。「また落書きか」と言われても、陽向に...
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靴下屋「ひなた」の午後

駅から少し離れた静かな商店街の一角に、木の看板が優しく揺れる小さな店があった。店の名前は「ひなた」。その名の通り、陽だまりのような暖かさを持つ空間だ。しかしこの店には、少し風変わりなこだわりがあった——靴下しか置いていないのである。店主は三...
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静かなる厨房

昔ながらの商店街の一角に、小さな工房「まるや食品模型店」はひっそりと佇んでいた。そこでは、店主の原田慎一(はらだしんいち)が一人、食品サンプルを作り続けている。慎一は子どもの頃から、なぜか「偽物」が好きだった。プラスチックの果物、精巧なミニ...
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和紙のひかり

小川紬(つむぎ)は、祖父の和紙工房で育った。岐阜の山奥、清流のほとりにある古びた工房は、春になると紙を漉(す)く音と水のせせらぎが響き合う。幼いころから、祖父が漉く和紙の白さに魅せられてきた。手にすると、冷たく、けれど温かい。指の先でそっと...
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池のほとりの約束

町はずれにひっそりとある小さな釣り堀「山岸つり池」。主である山岸達夫は、六十を過ぎた初老の男だった。背は低く、日焼けした肌に深い皺。いつも麦わら帽子を被り、寡黙だが笑うと少年のような表情を見せた。もともと達夫は都内でサラリーマンをしていた。...
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セットの向こう側

高梨結衣は、小さな町の高校に通う二年生。特別、何かに夢中になれることもなく、毎日をなんとなく過ごしていた。そんな彼女が変わるきっかけは、ふとした偶然だった。ある日、友人に誘われて観に行ったテレビドラマの公開ロケ。人気俳優が来るとあって、現場...
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カブトムシ博士と呼ばれた男

大和(やまと)は子どもの頃からカブトムシが好きだった。朝の森に入り、腐葉土の山を掘り返し、木の幹に蜜を塗ってはじっと待つ。友だちがゲームやスポーツに夢中になる中、彼だけはカブトムシと向き合う時間に心を燃やしていた。大人になった大和は、昆虫学...
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森を編む人

町のはずれに、小さな苗木屋があった。看板には「森の手仕事」と手書きで書かれている。店主の名は志乃(しの)。三十代の女性で、祖父の代から続く苗木屋を一人で切り盛りしていた。彼女が育てるのは、街路樹に使われるケヤキや、庭に植えられるハナミズキ、...