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時の砂を愛する人

高瀬結は、古道具屋「風詩(ふうし)」の奥にある小部屋で、砂時計を一つずつ丁寧に並べていた。店主の娘として生まれた彼女は、小さい頃から砂時計に特別な魅力を感じていた。それは祖父の影響だった。祖父はかつて時計職人で、時間という目に見えないものを...
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雪の行方

春が来るたび、村は雪で悩まされていた。山あいの小さな集落、湯ノ下村。豪雪地帯として知られ、冬の終わりには道路の脇に3メートル近くも積み上げられた雪の壁が残る。その処理に、村は多くの予算と労力を割いていた。排雪作業にかかる燃料代も馬鹿にならな...
動物

芝桜の丘のシマリス・シモン

丘のふもとに、小さな村がありました。春になると、村の上に広がる丘は、一面の芝桜でピンクや白、紫に染まります。その美しさを一目見ようと、森の動物たちや旅人たちが集まってくるのです。けれど、この芝桜が毎年美しく咲き誇るのには、ひとつ秘密がありま...
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紫陽花の咲くころに

雨の降る音が、今年も彼女の心を揺らす。藤村遥(ふじむら・はるか)は、梅雨の季節になると決まって、駅から少し外れた丘の上にある小さな公園へと足を運ぶ。そこには、色とりどりの紫陽花が群れをなして咲いていた。青、紫、ピンクに白。雨に濡れるたびに花...
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一滴の真実

かつて東京の一等地でフレンチの名店を構えていた料理人・吉村誠一(よしむら せいいち)は、突然すべてを捨てて故郷の秋田に戻った。その理由を誰にも語ろうとしなかったが、彼にはひとつだけ、譲れない想いがあった。「本物の醤油を使いたい」誠一が最後に...
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太陽の手紙

三鷹市の国立天文台。その地下の観測データ室に、彼は毎日欠かさず通っていた。名を、柳井拓海という。三十七歳。小柄で眼鏡をかけ、話し声は小さいが、太陽のことを語るときだけは声が大きくなった。彼は太陽の磁気活動と黒点の周期変動を研究する天文学者だ...
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タピオカ、世界を目指す

タピオカは、小さな黒いつぶつぶだった。彼は台湾のとある工場で生まれた。他のタピオカたちと一緒に、もちもちの感触を得るために熱湯で煮られ、黒糖の香りに包まれていた。生まれたばかりのタピオカは、自分が何者で、どこに行くのかを知らなかった。ただ、...
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忍者に憧れた男

「――拙者、参上つかまつる!」午後三時、都内某所のオフィス街。スーツ姿の人々が行き交う中、一人だけ異様な格好をした男がビルの影から転がり出た。全身黒ずくめ、顔の下半分は覆面。背中には木刀、腰には手製の手裏剣ポーチ。「おい、またあいつだぞ……...
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潮の花

海辺の小さな研究所に、ひとりの若い海洋生物学者がいた。名を佐久間海(さくま うみ)という。大学院を修了し、東京から南へ数百キロ離れたこの離島に赴任して三年目になる。彼女の研究対象は、潮間帯に棲むイソギンチャクだった。「イソギンチャクなんて、...
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海藻屋のしおり

小さな港町に、「海藻屋しおり」という看板を掲げた店があった。店主の名は本間しおり。三十代半ばの彼女は、町の誰よりも海藻が好きだった。わかめ、昆布、ひじき、アオサ、もずく——。乾物も生も、海藻という海の贈り物に彼女は目がなかった。子どもの頃か...