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今日は世界が寄り道する日

今日は、世界が寄り道する日だった。朝、目を覚ましたときから少しおかしかった。目覚まし時計は鳴らず、代わりに窓の外で見知らぬ鳥がゆっくり三回、咳をするように鳴いた。カーテンを開けると、いつもはまっすぐ伸びているはずの電線が、やわらかく弧を描い...
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死神のインターン

わたしが死神のインターンになったのは、大学三年の春だった。きっかけは、履歴書の書き間違いだ。本当は「志望動機:人の役に立ちたい」と書くはずが、うっかり「人の終わりに立ち会いたい」と変換して送信してしまった。三日後、「採用」の通知が届いた。差...
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感情の天気予報

この街では、朝のニュースよりも先に「感情の天気予報」が発表される。画面の中で微笑むのは、気象予報士ならぬ“心象予報士”のユリさんだ。背景には等圧線ではなく、色とりどりの雲がゆっくりと流れている。『本日の市内は、午前中いっぱい弱い不安が広がる...
不思議

世界が一文字だけ欠けている

その朝、ニュースキャスターは真顔で告げた。「本日未明、世界から一文字が消失しました」冗談のようだった。けれど街の看板はたしかにどこかおかしい。駅前の「平和通り」は「平和通」に、「ありがとう」は「ありがと」に、「さようなら」は「さような」に変...
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未来から届く間違い電話

その電話は、いつも午前二時十七分に鳴る。わたしの部屋の壁時計は、秒針の音だけがやけに大きい。眠れない夜にだけ、決まってコールが響く。非通知。三回きっかり鳴って、四回目の前に出ると、かすれた声が言う。「もしもし、そこは——まだ、間に合いますか...
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物語の余白を修理する仕事

わたしの仕事は、物語の余白を修理することだ。余白、といっても印刷の話ではない。誰かが書いた物語の、語られなかった部分。言えなかった本音。選ばれなかった結末。そこに空いた白い裂け目を、そっと縫い合わせるのがわたしの役目だった。部署は地下にある...
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嘘が現実になる街の物語

この街では、嘘は長く口にすればするほど、やがて現実になる。最初にそれが起きたのは、商店街の小さなパン屋だった。店主が売れ残りをごまかすために「今日は全部売り切れました」と毎晩言い続けた。三日目、棚から本当にパンが消えた。焼いたはずの分まで、...
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途中で名前が変わる物語

物語の主人公は、最初、海野透(うみの・とおる)という青年だった。透は「終わりの回収係」と呼ばれる仕事をしている。街の片隅に落ちている、使われなかった結末を拾い集めるのだ。告白されなかった恋、出されなかった手紙、言えなかった「ごめん」。それら...
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きみがいなくなるまで、世界は静かになる

きみがいなくなるまで、世界は静かになる。それは噂ではなく、観測された事実だった。最初に気づいたのは、海辺の研究所だった。白い建物の窓から見える波が、ある日を境に音を立てなくなった。水は確かに揺れているのに、砕けるはずの音だけが消えている。研...
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世界の端にある途中駅

世界の端にある途中駅には、終点へ向かう列車しか来ない。けれど、誰もここを終点だとは呼ばなかった。駅名はなく、時刻表も途中で破れている。線路は片方だけが海に向かって伸び、もう片方は霧の中で消えていた。私は駅舎のベンチに腰かけ、来るはずのない誰...