動物

不思議

ウォンバットの小さな灯り

タスマニアの深い森に、「ルミ」と呼ばれる一匹のウォンバットが暮らしていた。丸い体に短い足、そしてつぶらな瞳。周りの動物たちは皆、彼を“のんびり屋のルミ”と呼んでいた。実際、ルミは朝の陽が高くなるまで巣穴から出てこないし、歩けばとことこ、食べ...
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月夜に走るチンチラ

アンデスの高地に、小さな影がひらりと跳ねた。月の光を受けて銀色に輝く毛並み――それは、一匹のチンチラだった。名前はルミナ。ふわふわの体に、黒いビー玉のような瞳。仲間からは「少し変わった子」と言われていた。なぜなら、ルミナは月が大好きだったの...
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丘の上のヤギ、ルナ

ルナは、山あいの小さな村のはずれにある丘で暮らしている白いヤギだった。毛並みはふわふわで、朝露に濡れるたびに光を弾いて輝く。村の子どもたちは、丘に遊びに来るとき必ずルナに草を差し出して撫でていった。ルナはそのたびに「メェ」と優しく鳴き、子ど...
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ビスケットの香り

犬の肉球の匂いを嗅ぐのが好きだと言うと、たいていの人は少し驚いた顔をする。けれど、私にとってそれは、心の奥にあるやさしい記憶を呼び起こす香りなのだ。その匂いに初めて気づいたのは、小学三年生のとき。その日、母が拾ってきた子犬をタオルに包んで私...
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森のくまの手紙

北の森の奥深く、雪解け水がきらめく小川のそばに、一頭のくまが暮らしていました。名前はトモ。冬眠から覚めたばかりの春の朝、トモは巣穴の前で鼻をひくひくと動かしました。森の匂い。湿った土と若葉、そしてどこか甘い香り。その香りをたどって歩くと、小...
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ゆっくり森のルカ

ルカは、南の森でいちばん動かないナマケモノだった。朝になっても起きるのは太陽が空のてっぺんに来てから。夕方になっても、葉っぱをもぐもぐ食べるだけで、あとはずっと木の枝にぶら下がっていた。ほかの動物たちは、そんなルカを見てよく笑った。「おいル...
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夕暮れの帰り道

小さな町のはずれに、一軒の古い家があった。庭の柿の木の下で、柴犬の「こたろう」はいつも丸くなって眠っている。毛並みは陽だまりのようにあたたかく、鼻先は少し白くなり始めていた。もう十歳を越える老犬だった。こたろうの飼い主は、小学生の少女・美咲...
動物

信号の向こうの相棒

朝の光が差し込む警察犬訓練センターの広場に、風が吹き抜けた。若い警察官・田島は、ハーネスを握りしめながら深呼吸する。目の前には、一頭のジャーマン・シェパード──名は「レン」。鋭い目つきだが、尻尾の動きはどこか柔らかい。「レン、今日は最後の試...
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雪の上の約束

――北海道の冬は、長く、静かだ。森の奥、白い息を吐きながら、一匹のキタキツネが歩いていた。名はユキ。まだ若い雌のキツネで、胸の毛が少しだけ金色に輝くのが自慢だった。雪に覆われた地面を踏みしめるたび、きゅっ、きゅっ、と乾いた音が響く。ユキは飢...
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風と歩幅を合わせて

――朝の光が、牧場の柵を金色に染めていた。美沙はいつものように、黒いヘルメットを手に持って馬房へ向かった。そこには、栗毛の馬・ルークが静かに待っている。彼の瞳は深く、どこか人間よりも人間らしい優しさを湛えていた。「おはよう、ルーク」そう声を...