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森のくまの手紙

北の森の奥深く、雪解け水がきらめく小川のそばに、一頭のくまが暮らしていました。名前はトモ。冬眠から覚めたばかりの春の朝、トモは巣穴の前で鼻をひくひくと動かしました。森の匂い。湿った土と若葉、そしてどこか甘い香り。その香りをたどって歩くと、小...
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ゆっくり森のルカ

ルカは、南の森でいちばん動かないナマケモノだった。朝になっても起きるのは太陽が空のてっぺんに来てから。夕方になっても、葉っぱをもぐもぐ食べるだけで、あとはずっと木の枝にぶら下がっていた。ほかの動物たちは、そんなルカを見てよく笑った。「おいル...
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夕暮れの帰り道

小さな町のはずれに、一軒の古い家があった。庭の柿の木の下で、柴犬の「こたろう」はいつも丸くなって眠っている。毛並みは陽だまりのようにあたたかく、鼻先は少し白くなり始めていた。もう十歳を越える老犬だった。こたろうの飼い主は、小学生の少女・美咲...
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信号の向こうの相棒

朝の光が差し込む警察犬訓練センターの広場に、風が吹き抜けた。若い警察官・田島は、ハーネスを握りしめながら深呼吸する。目の前には、一頭のジャーマン・シェパード──名は「レン」。鋭い目つきだが、尻尾の動きはどこか柔らかい。「レン、今日は最後の試...
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雪の上の約束

――北海道の冬は、長く、静かだ。森の奥、白い息を吐きながら、一匹のキタキツネが歩いていた。名はユキ。まだ若い雌のキツネで、胸の毛が少しだけ金色に輝くのが自慢だった。雪に覆われた地面を踏みしめるたび、きゅっ、きゅっ、と乾いた音が響く。ユキは飢...
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風と歩幅を合わせて

――朝の光が、牧場の柵を金色に染めていた。美沙はいつものように、黒いヘルメットを手に持って馬房へ向かった。そこには、栗毛の馬・ルークが静かに待っている。彼の瞳は深く、どこか人間よりも人間らしい優しさを湛えていた。「おはよう、ルーク」そう声を...
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うさぎの大冒険

森のはずれの小さな丘に、一匹のうさぎが暮らしていました。名前はリリィ。ふわふわの白い毛と、ぴょこんと立った長い耳が自慢です。森の仲間たちに囲まれて暮らしていましたが、心の奥底にはいつも小さな願いを抱えていました。――この森の外の世界を見てみ...
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孤独な牙と小さな手

山の奥深く、古い樹々が風にざわめく森に、一匹の狼が棲んでいた。名をつける者もいないその狼は、ただ群れからはぐれた流れ者として生きていた。仲間を失ったのは数年前の冬のことだ。雪嵐の夜、獲物を追いかけて谷に迷い込み、気づけば一匹だけが生き残って...
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きつねの贈りもの

山のふもとの小さな村に、一匹のきつねが住んでいました。そのきつねは他のきつねたちとちがって、村の人間にいたずらをすることも、鶏をぬすむこともありません。ただ、村の子どもたちが笑ったり、田畑で働く人たちが楽しそうにしているのを、木陰から静かに...
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森の王、虎の誇り

深い森の奥に、一頭の虎がいた。名を呼ぶものは誰もいない。ただ「王」とだけ、獣たちに呼ばれていた。金色に輝く眼と、縞模様の毛並みは、夜の闇でもその存在を隠しきれないほどの威厳を放っていた。王は力強く、誰よりも速く、そして何よりも誇り高かった。...