東京都の片隅にある小さな街。
その一角に、一人の女性が開いたスイートポテト専門店「いもとびら」がある。
この店の主人、佐々木萌(もえ)は、幼い頃からさつまいもが大好きだった。
秋になると祖母が作ってくれたほくほくの焼き芋やスイートポテトを楽しみにしていた彼女。
祖母が作るスイートポテトは、バターと砂糖の絶妙なバランスで、甘すぎず、それでいて一口食べると心がほっと温まる味だった。
萌の夢はいつか自分の店を持つことだった。
しかし、その夢を叶えるまでの道のりは決して簡単ではなかった。
大学を卒業後、一般企業に就職した彼女は、毎日仕事に追われ、次第に夢を忘れかけていた。
しかし、ふとしたきっかけで祖母が亡くなり、その遺品の中からスイートポテトのレシピが書かれた古いメモ帳を見つける。
そこには祖母の温かな言葉も添えられていた。
「萌へ。どんなときも、自分の好きなことを忘れないで。さつまいものように、どっしりと地に足をつけて生きていってね。」
その言葉が萌の心に火をつけた。
「祖母のレシピを受け継ぎながら、自分らしいスイートポテトを作りたい。そしてそれを多くの人に届けたい」と決意した萌は、会社を辞める勇気を振り絞り、貯金をはたいて小さな店舗を借りた。
オープン当初、萌の店「いもとびら」はほとんど知られていなかった。
通りを行き交う人々も、新しくできた小さな店をただ通り過ぎるだけだった。
それでも萌はめげなかった。
早朝から夜遅くまで、さつまいもの選定や試作を繰り返し、祖母のレシピをベースにオリジナルのスイートポテトを開発していった。
ある日、地元のフードライターが偶然立ち寄り、萌のスイートポテトを食べた。
そのライターはその場で「このスイートポテトは、ただのお菓子ではない。作り手の心が感じられる」と絶賛し、自身のブログで紹介した。
それをきっかけに少しずつ口コミが広がり、店には次第に人が集まるようになった。
「いもとびら」のメニューは多彩だ。
クラシックなスイートポテトはもちろん、チョコレートを練り込んだものや、抹茶味、季節限定の栗やかぼちゃを使ったバリエーションもある。
それらはどれも萌の工夫が光り、子どもから大人まで楽しめる味となっている。
また、さつまいも本来の甘みを引き立てるために、素材には徹底的にこだわった。
契約農家から取り寄せた新鮮なさつまいもを使用し、砂糖や添加物は最小限に抑えている。
ある日、店のカウンターに年配の女性が訪れた。
その女性は、祖母の古くからの友人だった。
「あなたのおばあちゃんが作ってくれたスイートポテトと同じ味がする」と言って涙を流した。
萌は思わず笑顔になり、「祖母が私に教えてくれた味を、これからも大切に届けていきたい」と心に誓った。
現在、「いもとびら」は地元だけでなく、遠方からも多くの客が訪れる人気店となっている。
萌の夢は単なるスイートポテトの提供だけではなく、人々の心を温める「癒しの場」を作ることだ。
店内には小さなイートインスペースがあり、来店者がほっと一息つけるような空間が広がっている。
「さつまいもには、人を笑顔にする力があると思うんです」と語る萌の瞳は、かつて祖母がスイートポテトを焼くときのように温かく輝いている。
そして今日も、「いもとびら」の扉を開けるたび、甘く優しい香りが街に広がる。
その香りは、萌の夢と祖母への感謝が詰まった、愛情の香りだ。