町外れにある古びたプールは、長い間放置されていた。
子供たちの笑い声や水のはしゃぐ音が響き渡っていたのも、今は昔のこと。
今では雑草が生い茂り、プールの水も緑色に濁っている。
その場所には、ある恐ろしい伝説が語り継がれていた。
夏休みが始まる前のある日、地元の高校生たちがそのプールに集まった。
彼らは無謀にも肝試しをするために、夜中にプールに忍び込むことにした。
リーダー格のケンイチが、「ただの噂に過ぎないさ。怖がりすぎだよ。」と仲間たちを励ました。
夜の帳が下り、彼らは懐中電灯を手にプールのフェンスを乗り越えた。
中に入ると、薄暗い光の中でプールの水面が不気味に光っていた。
「まるで何かがこちらを見ているみたいだ」と、ユウコが震える声で言ったが、ケンイチは笑い飛ばした。
「そんなことないって。さあ、入ろう。」
彼らは水着を着てプールサイドに立ち、水に飛び込んだ。
水は冷たく、皮膚を刺すような感触がした。けれども、肝試しの高揚感が恐怖をかき消していた。
しばらくして、ケンイチが「誰が一番長く潜れるか競争しよう」と提案した。
全員が賛成し、一斉に水中に潜った。
その時だった。
ユウコが水中で何かに足を掴まれたような感触を覚え、パニックになって水面に顔を出した。
「何かが私を掴んだ!」と叫んだが、他の友達は笑いながら「ケンイチの悪戯だろ」と言った。
しかし、ケンイチはその場にいなかった。
彼はまだ水中に潜っていたのだ。
一瞬の静寂が訪れた。全員がケンイチを心配して水面を見つめた。
数秒後、ケンイチが水中から現れたが、その表情は青ざめ、恐怖に歪んでいた。
「何かがいる…ここに…」と彼は息を切らして言った。
その言葉を聞いた瞬間、全員がプールから上がろうとした。
しかし、足元に何かが絡みついて動けなくなった。
パニックに陥った彼らは必死に抵抗したが、次々に水中に引きずり込まれていった。
ユウコは最後までケンイチの手を掴んでいたが、その手が突然冷たくなり、力なく水中に沈んでいった。
次の朝、地元の警察が通報を受けて現場に駆けつけたが、そこには何の痕跡もなかった。
プールは再び静寂に包まれ、まるで何事もなかったかのように見えた。
ただ一つ奇妙なことがあった。
プールの底に、一列に並んだ高校生たちの水着が揺れていたのだ。
町の人々はこの事件について様々な噂をしていたが、誰も真実を知る者はいなかった。
プールは再び封鎖され、立ち入り禁止となった。
しかし、その夜から、町中に奇妙な現象が起こり始めた。
夜になると、誰かがプールサイドを歩く足音が聞こえるという。
また、プールの近くを通りかかると、微かに子供たちの笑い声や水の跳ねる音が聞こえるとも言われていた。
地元の老人たちは、かつてこのプールで溺死した子供たちの霊が未だに成仏できず、夜な夜な遊び続けているのだと言った。
ある日、ユウコの弟であるタケルが、姉の行方を追うために再びそのプールに足を踏み入れた。
彼はプールサイドに立ち、姉の名を叫んだ。
「ユウコ!どこにいるんだ!」
その瞬間、プールの水が揺れ始めた。
水面にユウコの顔が浮かび上がり、タケルを見つめていた。
「タケル、助けて…」と微かに囁く声が聞こえた。
タケルは恐怖で震えながらも、水に手を伸ばし、姉を助けようとした。
しかし、彼が手を伸ばすと、水面が激しく波立ち、何かがタケルを引き込もうとした。
タケルは必死に抵抗し、最後の力を振り絞ってプールから逃げ出した。
彼は振り返らずに全力で走り続けた。
その夜、タケルは高熱を出し、うなされながら「ユウコ…プール…」と繰り返し呟いていた。
町の人々は、タケルがその後どうなったのか知ることはなかった。
彼の家族は突然引っ越し、消息を絶った。
古びたプールは再び静寂に包まれ、誰も近づかなくなった。
しかし、夜が訪れると、そのプールからは依然として子供たちの笑い声や水の跳ねる音が聞こえてくるのだという。
その音を聞いた者は決して振り返ってはいけない。
さもなければ、プールの闇が再びその者を引きずり込むだろう。
そして、闇のプールの伝説は、今もなお町の人々の間で語り継がれている。
誰もがその場所に足を踏み入れることを恐れ、決して近づかないようにしている。
しかし、そのプールが存在する限り、恐怖の物語は終わることがない。