月影の孤島

ホラー

暗い森の奥深くにある古びた館。
館の中には古今東西の珍しい品々が所狭しと並び、特に美術館のような印象を抱かせるような絵画が壁にかけられていた。
その中に一枚、異様な気配を漂わせる絵があった。
絵の題名も作者も分からず、誰が描いたかも定かではない。
しかし、どこか惹かれるものがあり、訪れる者の目を捉えて離さない。

絵の中には、暗い海に浮かぶ孤島が描かれていた。
雲一つない夜空には満月が浮かび、冷たい光が島全体を薄く照らしている。
岸辺には大きな朽ちた塔が一つだけそびえ立ち、その頂上には人の姿が見えた。
だが、その人影はぼんやりとしか描かれておらず、こちらを見つめているのか、それとも何かに怯えているのか、判然としなかった。
近づいて見ると、塔の周りには黒い鳥が何羽も飛び交い、不気味な雰囲気をさらに引き立てている。

この絵が最も奇妙とされている理由は、見る角度や時間によって絵の中の風景が変化するからだった。
ある人が「月が消えた」と言い、また別の人は「海が荒れ狂っている」と証言した。
さらに奇妙なことに、この絵を長く見続けると、必ず体調を崩したり、不幸な出来事に見舞われるという噂があった。
館の管理人もこの絵を「呪われた絵」と呼び、滅多に人が近づかないようにと警告していた。

ある日、ある若い画家がこの館を訪れた。
彼は噂を聞きつけ、この絵に興味を抱き、無謀にも「自分ならこの絵の謎を解き明かせる」と豪語していた。
画家は館の管理人に頼み込み、夜通しその絵を観察し続けることを許された。
画家は手にキャンバスと画材を抱え、絵の前に座り、何かを見出そうとじっと見つめ始めた。

最初のうちは何も起こらなかったが、深夜を過ぎた頃、絵の中の満月が一層冷たく光り輝き始めた。
画家はそれを目にした瞬間、強烈な眩暈に襲われ、まるで吸い寄せられるように絵の中に引き込まれていく感覚を覚えた。
彼は無意識のうちに手元のキャンバスに向かい、絵を模写し始めた。
だが、描くたびに絵の中の風景が変わり、黒い影が徐々に画家の周りを取り囲むような気配がした。
画家は恐怖を感じたものの、謎の力に突き動かされ、止まることができなかった。

やがて夜が明け、館の管理人が部屋に入ると、画家は意識を失って倒れていた。
その傍らには、奇妙な模様や影が描かれた不気味な絵がキャンバスに残されていた。
だが、その絵には本来の絵画に描かれていた塔や月、海はどこにもなく、ただ深い暗闇と、何かがこちらを見つめているような無数の瞳が浮かんでいた。

画家は意識を取り戻したが、何を見たか、何を描いたかを全く覚えていなかった。
そしてそれ以降、彼は毎夜悪夢にうなされるようになり、眠りの中で何度も、あの不気味な島や塔の影を目にするようになったという。
彼は最終的に筆を取ることができなくなり、絵の前を通る度に体が震え、館を二度と訪れることはなかった。

奇妙なことに、彼の描いたキャンバスもまた、人の目に長く触れると、元の呪われた絵と同じように、風景が変わり、見た者に不幸を招くという噂が広まった。
館の管理人はこの絵もまた「呪われた絵」として扱い、再び封印することにしたという。
今ではその館自体が人々の記憶から消え去り、二度とその地を訪れる者はいなくなったが、かつて呪われた絵を見た者たちの恐怖だけが、人々の記憶に静かに残り続けている。