春の風がやわらかく森を渡るころ、小川のそばの白樺の木に、バービーという小さな鳥が暮らしていた。
バービーは灰色の羽に淡い青の差し色をもつ、森ではあまり目立たない存在だったが、巣作りの腕前だけは誰にも負けなかった。
冬の名残が消え、土の匂いが濃くなると、バービーは毎朝いちばんに空へ飛び立った。
巣を作る場所はもう決めてある。
白樺の枝分かれした、雨を避けられる場所だ。
だが、巣は場所だけでは完成しない。
苔、枯れ草、細い枝、そして柔らかな羽毛――すべてがそろって初めて、命を守る家になる。
バービーは小川のほとりで、しっとりとした苔をくちばしで丁寧にはがした。
乾きすぎず、湿りすぎないものを選ぶのが大切だった。
森の奥では風に落とされた小枝を集め、何度も空を往復する。
途中、リスのピポに出会うと、「今年も巣作りかい?」と声をかけられ、バービーは誇らしげに胸を張った。
「うん。今年は少し広めにするんだ」
それは、バービーの心に小さな希望が芽生えていたからだ。
まだ姿は見えないけれど、やがて訪れる家族の気配を、彼女は確かに感じていた。
巣作りは順調に進んでいたが、ある日、強い雨が森を打った。
集めた材料の一部は流され、白樺の枝も激しく揺れた。
巣はまだ完成しておらず、バービーは不安で胸がいっぱいになった。
それでも雨上がりの空を見上げ、深く息を吸うと、また飛び立った。
雨に濡れた森は、いつもより材料が見つけやすかった。
柔らかくなった草、洗われて清らかな羽毛。
バービーは一つひとつを確かめ、より丈夫で温かな巣になるよう工夫を重ねた。
内側には羽毛を敷き詰め、外側は苔で覆う。
何度も回り、押し固め、形を整える。
その姿は小さくとも真剣で、森の仲間たちは静かに見守っていた。
数日後、巣は完成した。
白樺の枝に溶け込むような、丸く美しい巣だった。
中に入ると、外の風の音がやさしく遠のき、安心できる温もりがあった。
バービーは巣の中央に座り、そっと目を閉じた。
春の光が枝葉を透かし、巣に淡い影を落とす。
ここから新しい命が始まる――そう思うと、胸が静かに満たされた。
バービーの巣作りは、ただの作業ではない。
未来を迎えるための、小さくて確かな約束だった。
森にはまた、穏やかな日々が戻ってきた。
白樺の木の上で、バービーの巣は今日も風に揺れながら、静かに命の時を待っている。


