ある静かな森の外れ、小さな村の片隅に「ポン太」という名のポメラニアンが住んでいました。
フワフワの金色の毛並みと、くるんと巻いたしっぽが自慢のポン太は、飼い主のミナと穏やかな日々を過ごしていました。
しかし、ある夜のこと。
空が赤黒く染まり、不気味な雷が森に落ちました。
その翌朝、村の川の水が黒く濁り、草木が枯れはじめ、人々は不安に包まれました。
「森の精霊が怒っているのかもしれない…」
村の長老がつぶやきました。
その夜、ポン太の夢に一匹の白いオオカミが現れました。
「小さな勇者よ。森の中心“霧の谷”に封じられた“光のしっぽ”を目覚めさせるのだ。それはお前の中に眠っている力と呼応するだろう」
目を覚ましたポン太のしっぽが、ほんのりと光っていました。
ポン太は意を決して、ひとり旅立つことにしました。
ミナには手紙の代わりに、毛で作ったハート型のぬいぐるみを残し、夜明け前に村を抜け出しました。
森はかつてないほど荒れていました。
風は冷たく、木々は不気味にざわめいています。
最初に出会ったのは、ガラガラ声のカラス「クロウ」でした。
「坊主、森の奥に行くつもりか?命が惜しくないならやめとけ」
「でも、森を救いたいんだ。ミナやみんなが安心して暮らせるように」
ポン太の真剣な目に心を動かされたクロウは、空から道案内をしてくれることになりました。
次に出会ったのは、年老いたアナグマ「トンベ」。彼は森の地図を持ち、霧の谷へ行くには「泣き岩の道」を越えねばならないと教えてくれました。
「だが気をつけな。あの道には“影の番犬”がいる。恐怖を映す鏡のような目をしているんだ」
ポン太は震えながらも進みました。
泣き岩の道では、突然霧が濃くなり、前が見えなくなります。
そして現れたのは、もう一匹のポメラニアン。
…自分と瓜二つの姿。
「お前は弱い。吠えることもできない、ただの飾り犬だ」
幻のポメがささやきます。
ポン太は目を閉じ、ミナの笑顔を思い出しました。
「僕は飾りじゃない。大切な人を守りたいだけなんだ!」
その瞬間、しっぽの光が強くなり、幻のポメを吹き飛ばしました。
霧の谷にたどり着いたとき、そこには巨大な闇の樹がそびえ立ち、周囲の生命を吸い取っていました。
「ここに…“光のしっぽ”が…」
ポン太が近づくと、しっぽの先が白く輝き、闇の樹の根元から一本の光の枝が現れました。
その光がポン太に宿った瞬間、体がふわっと浮かび、まるで翼を得たかのように宙を舞いました。
「これが…精霊の力?」
空に向かって吠えると、雲が割れ、空に青が戻りました。
森に光が差し込み、草木がよみがえっていきます。
村に戻ると、ミナが泣きながらポン太を抱きしめました。
「おかえり、ポン太…!」
そのしっぽはもう、ただの毛ではありませんでした。
希望の光を宿した、森と人々をつなぐ小さな灯火。