陽の光が降り注ぐ丘の上に、一面に広がる果樹園があった。
リンゴ、モモ、ナシ、サクランボ——四季折々に色とりどりの果実が実るその場所で、一人の少年が育った。
少年の名は春馬(はるま)。
彼の家は代々この果樹園を守ってきた農家だった。
生まれたときから果樹に囲まれ、風のにおいも、土の感触も、実る果実の甘酸っぱい香りも、すべてが春馬の生活の一部だった。
春馬の家では、祖父と父が果樹の世話をし、母が収穫した果実でジャムやジュースを作っていた。
春馬は小さなころから家族の仕事を手伝い、枝に登って虫を探したり、水やりをしたり、落ちた果実を拾って回ったりした。
ある夏の日、春馬は祖父から一本の古いリンゴの木の話を聞いた。
「この木は、おまえのひいおじいさんが植えたものなんだよ。もう百年近くここに立っている」
春馬はその木に興味を持ち、毎日のように観察するようになった。
幹には深い皺が刻まれ、枝は太く広がり、たくさんの実をつけていた。
しかし、ある日、祖父がふとため息をついた。
「この木ももうずいぶん年老いた。来年はどれだけ実をつけてくれるか……」
その言葉を聞いた春馬は、なんとかこの木を元気にできないかと考えた。
祖父が剪定の仕方を教えてくれたので、春馬は少しずつ枝を整え、土に栄養を与えた。
毎朝「がんばれ」と声をかけ、水をやりながら優しくなでた。
すると、不思議なことが起こった。
秋になり、収穫の時期になると、そのリンゴの木は例年よりも大きな実をつけたのだ。
祖父も父も驚いた。
「こんなに立派な実をつけるとはな……春馬のおかげかもしれん」
春馬はうれしくてたまらなかった。
自分の手で木を守り、果実を実らせることができたのだ。
そのリンゴをかじると、甘くて、ほんのりとした酸味があり、何よりも春馬には特別な味がした。
それから何年か経ち、春馬は果樹園の仕事を本格的に手伝うようになった。
季節の巡りとともに成長しながら、果樹の世話をし、果実を収穫し、家族とともに暮らした。
やがて、春馬が大人になり、祖父が他界したとき、彼はあの古いリンゴの木のもとに立った。
枝の一本一本に祖父との思い出が詰まっていた。
そして、その年もまた、木は実をつけていた。
春馬はそっと木の幹に手を当てた。
「ありがとう、じいちゃん」
風が吹き、リンゴの葉がさらさらと揺れた。
まるで祖父がそこにいるかのように——。
春馬はその後も果樹園を守り続け、次の世代へと繋いでいった。
彼の手で育てられた木々は、毎年変わらぬ実りをもたらし、果樹園はいつまでも豊かに広がっていった。