オリーブの約束

面白い

イタリアの小さな村、トスカーナ地方の丘陵地帯に、一人の男が暮らしていた。
名はマルコ・ベリーニ。彼は先祖代々続くオリーブ農園を守る最後の継承者だった。

マルコの祖父、エンリコは村でも名高いオリーブオイル職人で、その黄金色のオイルは「ベリーニの奇跡」とまで称されていた。
しかし、時代の流れとともに、多くの農家が大量生産へと舵を切り、伝統的な製法を貫くベリーニ家のオイルは商業的には不利になっていった。
父の代になり、経営は厳しさを増し、ついにはオリーブ畑の半分が売られてしまった。

マルコは幼い頃から祖父の仕事を間近で見ていた。
エンリコは一本一本の木を愛しむように手入れし、オリーブの実が熟す時期を見極め、最も味わい深い瞬間に収穫していた。
その後、石臼で丁寧に搾り、余計なフィルターを通さず、純粋なエキストラバージンオイルとして仕上げる。
それは、祖父の人生そのものだった。

だが、父はそんな祖父のやり方を「時代遅れ」と切り捨て、より効率的な生産方法を取り入れようとした。
しかし、安価な機械搾りのオイルが市場にあふれる中、品質で勝負するのは厳しく、家計は苦しくなる一方だった。

そして数年前、父が亡くなった。
農園はマルコに引き継がれたが、彼は決断を迫られていた。
「このまま伝統を守るか、それとも近代的な方法で生き残るか」。

ある日、マルコは幼い頃に祖父と交わした約束を思い出した。

「マルコ、お前が大人になったら、この畑を守ってくれるか?」

「うん、ノンノ(おじいちゃん)。僕が絶対にこのオイルを作り続ける!」

小さな手を差し出した自分に、祖父は目を細めて微笑み、力強く握り返した。

マルコは決めた。祖父のやり方を貫こうと。

しかし、現実は厳しかった。
大量生産のオリーブオイルが市場を席巻する中、マルコのオイルは「高価すぎる」と言われ、ほとんど売れなかった。
それでも彼は諦めず、祖父の方法を守り続けた。

ある日、彼のオイルを試飲したある女性が現れた。
フランスの有名なシェフ、ソフィ・ルモンドだった。

「これは…本物のオリーブの味がするわ!」

彼女は感動し、自分のレストランで使いたいと言った。
それをきっかけに、マルコのオイルは徐々に高級レストランやこだわりの食材を扱う店に広がっていった。

マルコは気づいた。
「伝統を守ることは、ただ過去に固執することではない。
本物の価値を理解してくれる人に届けることが大切なんだ」と。

祖父が大切にしてきたものを次の世代に繋ぐために、マルコはこれからもオリーブの木を守り続けるだろう。