「おばあちゃん、また作ってくれる?」
「もちろんさ。あんたが帰ってきたら、たっぷり作ってあげるよ。」
小さい頃から、祖母の作るオムライスが大好きだった。
ふわふわの卵に包まれたケチャップライス。
口に運ぶたびに感じる優しい甘みと、ほんのりとした酸味。
それは、僕にとって「家の味」だった。
だけど、大学進学とともに東京に出てからは、なかなか帰省できなくなった。
「また今度」と思いながら、気づけば三年も帰っていなかった。
そして、ついにその「また今度」が訪れない日が来た。
祖母が他界したという知らせを受けたのは、大学の講義が終わった直後だった。
頭が真っ白になり、しばらくその場から動けなかった。
慌てて故郷に戻ると、祖母の家は昔のままだった。
仏壇の前に座り、祖母の写真を見つめる。
優しく微笑んでいる顔が、まるで「おかえり」と言っているようだった。
「ごめんね、おばあちゃん。帰るって言ってたのに……」
そう呟くと、胸が苦しくなった。
その夜、台所で手を止めたまま考えていた。
最後に祖母と交わした会話を思い出す。
「帰ってきたら、たっぷり作ってあげるよ。」
……だったら、せめて僕が作ろう。
祖母が作ってくれたあのオムライスを、自分の手で。
冷蔵庫を開けると、卵もケチャップも残っていた。
炊飯器の中には、炊きたてのご飯があった。
それを見た瞬間、涙がこぼれた。
祖母は、僕が帰ってくることを信じて、ご飯を炊いていたんだ。
涙を拭いながら、僕は祖母のレシピを思い出しながら作り始めた。
鶏肉を炒め、玉ねぎを加え、ご飯を投入する。
ケチャップを入れて、木べらで混ぜると、懐かしい香りが広がった。
次に、卵を溶いて、ふわっと焼き上げる。
……けれど、祖母のようにきれいに巻けなかった。
それでも、なんとか形を整えて、皿に盛る。
祖母のオムライスとは違うかもしれない。
でも、これは僕なりの「ありがとう」だった。
仏壇の前にオムライスを供え、そっと手を合わせた。
「おばあちゃん、できたよ」
すると、不思議と祖母の声が聞こえた気がした。
「じょうずにできたね」
涙が止まらなくなった。
でも、それは悲しみの涙だけではなかった。
次の日、僕は祖母のレシピノートを見つけた。
そこには、僕のために書き残された、オムライスの作り方が綴られていた。
「おばあちゃん、ありがとう」
僕はそのノートを大切に抱きしめた。
そして、これからも祖母の味を受け継いでいこうと誓った。