ラムネと幸せの味

食べ物

商店街の一角にある小さな駄菓子屋「たぬき堂」。
その店先には、どこか懐かしい雰囲気の漂う棚が並び、カラフルな駄菓子がぎっしり詰まっている。
子どもたちはもちろん、大人たちもふらりと立ち寄る、そんな親しみのある場所だ。

高校生の颯太(そうた)は、この「たぬき堂」が大好きだった。
特にお気に入りはラムネ菓子。
カラフルな小粒が瓶の中に詰め込まれ、透明な瓶越しにキラキラと光る姿に、彼はいつも心を惹かれていた。
颯太がラムネを好きになったきっかけは、小学生のころだった。

颯太の家は、商店街から少し離れた住宅街の一角にあった。
彼が幼い頃、母親が仕事で忙しく、父親も出張続きで家を空けることが多かった。
そのため、颯太はよく祖母に預けられていた。
祖母は颯太を連れて、よく「たぬき堂」に出かけた。
駄菓子屋での買い物は、颯太にとって特別な時間だった。

ある日、颯太は棚に並ぶ瓶入りのラムネ菓子を見つけた。
「これ、きれいだね」とつぶやくと、祖母は「ラムネは幸せの味なんだよ」と微笑んだ。
その言葉の意味は当時の颯太にはよくわからなかったが、祖母の優しい笑顔とその言葉は、彼の心にしっかりと刻まれた。

その後も、祖母との思い出は増えていったが、彼が中学生になるころには、祖母は体調を崩し入院するようになった。
病院での面会の日、颯太は「たぬき堂」で買ったラムネ菓子を持って行った。
「おばあちゃん、これ幸せの味でしょ?」と言って瓶を差し出すと、祖母は嬉しそうに頷きながら「本当にそうだね」と答えた。
それが祖母との最後の会話となった。

高校生になった颯太は、ラムネ菓子を見るたびに祖母との思い出を思い出すようになった。
「たぬき堂」に行くのは、どこか祖母に会いに行くような感覚だった。
ある日、颯太がいつものようにラムネを買いに行くと、店主のたぬきおじさんが話しかけてきた。

「颯太くん、いつもラムネ買ってくれるねえ。そんなに好きなのかい?」

「うん、ラムネを食べるとおばあちゃんのことを思い出すんだ。」

たぬきおじさんは少し驚いた顔をした後、にこっと笑った。
「そっかあ。それなら、特別に昔ながらのラムネも試してみるかい?」と言って、奥の棚から少し大きな瓶を取り出した。

その瓶には、今では珍しい手作りのラムネ菓子が詰まっていた。
一つ口に入れると、どこか懐かしく、でも新しい味がした。
颯太はその味に感動し、目を輝かせた。
「これ、すごく美味しい!」と笑顔で言うと、たぬきおじさんも嬉しそうに頷いた。

「それはね、昔、おばあちゃんもよく買ってたラムネなんだよ。お前さんのおばあちゃんは、この店の常連さんだったからね。」

颯太は驚きとともに、胸が温かくなるのを感じた。
ラムネが、祖母と自分をつなぐ特別な絆だったことを改めて実感したのだ。

それから颯太は、もっとたくさんの人にこのラムネの美味しさを知ってもらいたいと思うようになった。
たぬきおじさんと相談し、商店街のイベントでラムネを配ることを提案した。
イベント当日、颯太は自分の思い出話を交えながら、ラムネを手渡していった。

「これは幸せの味です。僕のおばあちゃんが教えてくれたんです。」

その言葉に興味を持った人々は、次々とラムネを手に取った。
そしてラムネを口にした人たちの顔に広がる笑顔を見て、颯太は心の中で祖母に感謝した。

それ以来、「たぬき堂」はさらに賑わうようになり、颯太のラムネは商店街の名物となった。
颯太自身も、ラムネを通じて多くの人とつながり、大切な思い出を共有する喜びを知った。

そして、颯太の中で祖母の言葉は今も生き続けている。

「ラムネは幸せの味」

その味は、これからも多くの人の心に広がっていくに違いない。