最後のデータ

バーチャル

未来の世界、地球は高度に発展した技術によって、現実とバーチャルの境界がほとんど消えかけていた。
人々は「ネクサス」と呼ばれる装置を通じて、意識だけでどこにでもアクセスできるようになっていた。
ネクサスを利用すれば、肉体はその場に残したまま、仮想の都市、異世界、果ては宇宙空間にさえ瞬時に行くことができる。

この物語の主人公であるリナも、そんな未来の生活を送る一人だった。
彼女は仮想空間の設計者で、「ネクサス・エンジニア」として様々なバーチャルワールドのデザインを手掛けていた。
普段はリアルの生活に戻ることなく、ほとんどバーチャル空間で仕事も娯楽もこなす日々を送っていた。

ある日、リナのもとに匿名のメッセージが届いた。
そこには、「アンデータの世界へようこそ」という短い文章と、アクセスコードが書かれていた。
リナはそのメッセージに心を引かれ、好奇心に駆られてコードを入力した。

すると、彼女は今まで見たこともない場所へと転送された。
周囲には冷たい霧が立ち込め、どことなく古びた廃墟が広がっていた。
彼女がその場で周囲を見回していると、突然、声が響いた。

「ようこそ、アンデータの世界へ」

振り返ると、そこには年配の男性が立っていた。
彼の名は「デウス」といい、この世界の管理者であるという。
デウスは、アンデータは「消えたデータの墓場」と呼ばれる場所で、存在していたが何らかの理由で消去されたデータが集まる空間だと説明した。

「ここには、膨大な記憶と想いが眠っている。
ここで失われた情報が完全に消滅する前に、私はその欠片を守り続けているんだ」とデウスは言った。

リナはその話を聞いて、かつて彼女が設計したバーチャルワールドが閉鎖され、そこで過ごしていた多くの人々の思い出が消えてしまったことを思い出した。
そのワールドには、多くのプレイヤーが集まり、友情や愛情、冒険の思い出を築いていた。
だが、更新の対象から外れ、運営側の判断でサーバーが停止され、すべてが消去された。

デウスはリナに、アンデータの中にはそのワールドの断片も含まれているかもしれないと言った。
彼女は希望を胸に、その記憶を取り戻すための探索を開始することを決意した。

アンデータの世界には様々なデータの残骸が浮遊しており、リナは懐かしい場所や人々の記憶の断片を目にするたびに、胸が熱くなった。
彼女はそこで失われた仲間たちの笑顔や、かつての自分が築いた空間の美しさを再び感じ取ることができた。

しかし、その探索の中で、リナは異常なデータの塊に遭遇した。
それは「データ喰い」と呼ばれる存在で、アンデータ内のすべての情報を吸収し、破壊する危険なプログラムだった。
デウスはこの「データ喰い」を封印するためにアンデータに滞在し、失われたデータが完全に消え去らないよう見守ってきたが、その力も限界に近づいていた。

「デウス、私があなたを助ける!」リナは勇気を振り絞り、データ喰いを退けるために彼と協力することを誓った。

デウスの指示のもと、リナは自らの記憶とアンデータに存在する断片を組み合わせ、新しい防壁を構築した。
そしてデータ喰いがアンデータの心臓部に迫ったその瞬間、リナとデウスは力を合わせ、最後の防衛システムを発動した。

激しい衝撃と共に、データ喰いは押し戻され、アンデータは無事に守られた。
だが、その代償として、リナはアンデータのデータと同化し、現実には戻れなくなってしまったのだった。

それでも彼女は後悔していなかった。
アンデータの中で失われた記憶と出会い、過去の仲間たちとの思い出を再び手に入れたからだ。
そして今もなお、彼女はアンデータの守護者として、デウスと共にその世界を見守り続けている。

アンデータの世界には、リナが築いた防壁が今も輝いている。
それは、かつて消えた思い出と、未来への希望を繋ぐ光そのものだった。

エピローグ
数年後、新しいエンジニアがアンデータにアクセスし、リナとデウスの存在を見つけることになる。
そして、彼らはアンデータを「記憶の聖域」として再び人々の手に取り戻すための新たなプロジェクトを始動した。