動物

森の歯医者さん ―アライグマ先生の診療室―

深い森の奥、木々の隙間から柔らかな光が差し込む場所に、小さな診療所がありました。丸太で作られた壁に、白い木の看板。その看板には「アライグマ歯科」と書かれていて、森の動物たちはそこを「先生のところ」と呼んでいました。先生の名前はリクト。器用な...
食べ物

バニラ色のひととき

佐伯真琴は、どんなに忙しい日でも必ず一日の終わりに小さな陶器のカップにバニラアイスをよそう習慣を持っていた。冷凍庫から取り出したばかりの固い白い塊を、少し力を入れてスプーンですくう。その音や感触さえ、彼女にとっては安らぎの儀式だった。仕事は...
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木のおもちゃのぬくもり

陽介は三十代半ばの木工職人だった。彼の工房には、削りかけの木片や、乾燥させた板、そして色とりどりの木のおもちゃが並んでいた。積み木、車、動物の形をしたパズル……どれも角が丸く磨かれ、手にしたときに温かみを感じるよう工夫されている。子どものこ...
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雲の手紙

子どものころから、空を見上げるのが好きだった。遊び仲間が鬼ごっこに夢中になっているときも、僕は校庭の端に寝転び、流れる雲をじっと見ていた。羊の群れのように連なる雲、巨大な山のように立ち上がる雲、そして夕暮れに染まって燃えるような雲。形も色も...
動物

長寿の約束

むかしむかし、ある山里の外れに、小さな池がありました。池には一羽の鶴と、一匹の亀が仲良く暮らしていました。鶴は長い足で水面を歩き、空を飛ぶことができました。亀はのろのろと地を這い、重い甲羅を背負っていました。姿も暮らし方も違いましたが、二匹...
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最後のコード

古びた木造の家の奥に、一本のギターが眠っている。ネックは少し反っていて、弦も錆びつき、音はかすかに歪んでいる。それでもそのギターは、誰かが奏でてくれるのを静かに待っていた。持ち主だったのは、今は亡き祖父・昭三(しょうぞう)。若い頃はブルース...
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碁盤のささやき

古びた町の一角に、小さな囲碁教室があった。看板も色褪せていて、初めて見る人はそこに人が集っているとは思わないだろう。しかし、放課後になると子どもたちが駄菓子を片手に集まり、碁盤の上に石を打ち合う音が響いていた。少年・悠斗は、ある日、友だちに...
食べ物

キャベツ畑の約束

陽介は子どものころからキャベツが好きだった。炒めても、煮ても、生でも、あの甘みと歯ごたえがたまらなかった。給食に出たロールキャベツを誰よりも早く平らげ、家では母の千切りキャベツを大盛りで食べ、友達には「草食動物みたいだな」と笑われた。それで...
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土の城の住人たち

森の奥深くに、ひときわ大きな蟻塚があった。高さは子どもの背丈ほどもあり、まるで小さな城塞のように盛り上がっていた。土の壁は幾度もの雨風を耐え抜いて固く、内部には無数の通路が走り、卵を守る部屋、食糧を蓄える倉庫、働き蟻たちの寝床が整然と分かれ...
不思議

星を飲む町

その町には、不思議な習慣があった。年に一度、夜空から星が降りてくるのだ。大きな隕石ではない。手のひらほどの光の粒が、ふわふわと舞い降り、路地や屋根の上に静かに積もる。町の人々はそれを「星のしずく」と呼び、集めては小さな瓶に閉じ込め、ひと口ず...