動物

しぶきとソラと秘密の池

ソラは、小さな町に住むゴールデンレトリバーの男の子。光るような金色の毛並みと、くりくりした目がチャームポイント。彼にはひとつ、大きな特徴があった——水が大好きでたまらないのだ。朝、町の川沿いを散歩するたびに、水面に映る自分の顔に向かって吠え...
面白い

わすれもののほんだな

まちのはずれに、ちいさな古本屋がありました。名前は「ふることば書店」。木の看板に、色あせた金色の文字がほこりをかぶっています。この店をひとりで切り盛りしているのは、40代の男の人。名前は安藤(あんどう)さん。いつも無口で、店の奥にこもり、誰...
面白い

ラスト・ラン

高校三年の秋、渡辺翔太は最後のマラソン大会に臨もうとしていた。風は冷たく、遠くの山がうっすらと紅葉に染まり始めている。グラウンドにはクラスメイトたちの笑い声が響いていたが、翔太の心は重たかった。彼はかつて陸上部のエースだった。中学時代は数々...
食べ物

甘納豆の手紙

その町には、昔ながらの駄菓子屋「たけうち商店」があった。木造の店は時代の流れに取り残されたようにぽつんと立ち、今では店主の竹内トメばあさんが一人で切り盛りしている。色褪せたのれんをくぐると、カラフルなあめ玉やビニール袋に詰まった駄菓子が並ん...
面白い

まだ ここにいる

むかしむかし、深い森の奥に、ひとつの古い切り株がありました。その切り株は、もとは大きな樫の木でした。数百年も生きてきたその木は、鳥たちの巣になり、リスのかけっこの舞台になり、森の仲間たちにとって、なくてはならない存在でした。けれどある日、森...
不思議

はにわのまにまに

雨の降る春の日、駅から少し離れた団地の一室に、ひとりの若い女性が引っ越してきた。彼女の名前は中谷 麦(なかたに むぎ)。年は二十七。職業は図書館司書。趣味は――はにわ収集。「なんでそんなに好きなの?」とよく聞かれる。答えはいつも同じだ。「な...
食べ物

ただいま、ごはん

小町悠(こまち ゆう)は、生まれたときからお米が好きだった。赤ん坊のころはミルクよりおかゆに喜び、小学生になるころには炊き立てのご飯の香りで目を覚ました。高校の卒業文集に「将来の夢:お米屋さん」と書いたほどである。だが、大学進学とともに都会...
不思議

星屑パン屋と流れ星の願い

とある小さな町に、「星屑パン屋」と呼ばれるパン屋があった。町外れの丘の上にぽつんと建っているその店は、夜になると不思議なことが起こる。パンが星のかけらのように光りだし、風に乗ってふわりと浮かぶこともあるという。そんな噂が子どもたちの間で囁か...
動物

あの坂の上で

坂の上に、古びた一軒家があった。町から少し離れたその家には、白髪まじりの老人と、一匹の秋田犬が暮らしていた。老人の名は中村誠一(なかむら せいいち)。定年を迎えて十年が過ぎ、今ではこの静かな町で、のんびりとした日々を送っている。秋田犬の名前...
食べ物

海の香りとフィッシュチップス

北の港町、シーブルック。冷たい潮風が通りをすり抜ける夕暮れ時、一軒の古びたフィッシュアンドチップスの店が小さな明かりを灯していた。その名も「ジョージの屋台」。店主のジョージは、白髪まじりの髭をたくわえた年老いた男で、50年以上も同じ場所で変...