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いちごの香りのする日曜日

日曜日の朝、陽菜(ひな)はいつものように窓を開け放ち、春の風を部屋に招き入れた。ほんのりと湿った空気とともに、どこからか甘い香りが流れ込んでくる。「……いちごの香りだ」彼女は目を細めて、小さく微笑んだ。いちごの香りが好きだと気づいたのは、小...
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直す男

町のはずれに、古びた工房がある。看板はもう文字がかすれて読めないが、地元の人々はそこを「直す男の店」と呼んでいた。そこに住むのは、五十代半ばの男、名を佐伯隆志(さえき・たかし)という。背は高くないが、無口で手が大きく、眼鏡の奥の目はいつも細...
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静かな夜のカクテル

都心の喧騒から少し離れた裏通り。そこには「Bar Silhouette」という小さなバーがある。派手な看板はなく、ドアの上にさりげなく銀色の文字が浮かぶだけ。だが、常連たちはこの店を「心を休める場所」と呼ぶ。店の奥には一枚の長いカウンター。...
動物

月影の森のシロ

森の奥深く、人の気配がほとんど届かない静寂の地に、一頭のツキノワグマが暮らしていた。名前は「シロ」。首元にくっきりと浮かぶ白い三日月模様が、その名の由来だった。シロはまだ若いが、母グマから教えられた知恵と勘で、山の恵みとともに生きていた。春...
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カーテンの向こう

部屋のカーテンを開けるのが、村田の朝一番の儀式だった。太陽の光がどんなにまぶしくても、雨が窓を濡らしていても、彼は決してこの行動を欠かさない。ただし、ただの「開ける」ではない。正確な角度で左右均等に開く。ひだの数にもこだわりがある。カーテン...
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空を駆ける

ある晴れた夏の朝、澄み渡る青空に一台の小型ヘリコプターがゆっくりと舞い上がった。そのコクピットには、小柄だが瞳をキラキラと輝かせた青年、藤原悠斗(ふじわら ゆうと)が座っている。彼が操縦桿(こうじゅうかん)を軽やかに動かすたび、機体はまるで...
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チューリップの咲く庭で

ルミコは、小さな庭で毎年春を待ちわびる。冬の間は寒さのためにほとんど外に出ず、厚手のコートにマフラー、手袋で身を固めながらも、心の中ではひそかにチューリップの芽吹きを夢見ていた。彼女が初めてチューリップに出会ったのは、幼い頃に連れて行っても...
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ハブ酒とあの夜の唄

那覇の国際通りから少し外れた裏路地に、「風の蛇(かぜのじゃ)」という小さな居酒屋がある。店の棚には、琉球ガラスに詰められた泡盛や古酒がずらりと並ぶ中、ひときわ異彩を放つ一本があった。瓶の中にとぐろを巻いたハブが眠る――そう、ハブ酒だ。店の常...
冒険

トラの大冒険 ~星降る谷を越えて~

そのトラの名は、ラオといった。金色のたてがみに、琥珀色の瞳。ジャングルの王と讃えられるにはまだ若かったが、その心には誰よりも熱い冒険への憧れが燃えていた。ラオが生まれ育ったのは、緑深きセリカの森。ここでは多くの動物たちが平和に暮らしていたが...
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透明な素肌の約束

里香(りか)は、都心の広告代理店で働く三十二歳の女性だった。華やかな世界に身を置きながらも、彼女の鞄の中には、どこか素朴な、ラベルの小さなガラス瓶がいくつも入っていた。そこには「無添加石けん」「ホホバオイル」「化学成分不使用」の文字が並ぶ。...