冒険

しろくまの大冒険

北極の広い氷原に、リクという名前のしろくまが住んでいた。リクはまだ若く、雪と氷に囲まれたこの世界しか知らなかったが、いつか遠くの知らない場所を見てみたいという夢を抱いていた。「この氷の向こうには何があるの?」リクはよく母にそう尋ねた。「海が...
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継ぎはぎの記憶

小さな町のはずれに、「糸の記憶」という名前の古びた手芸店がある。店主は七十を越えた女性、佐和子さん。白髪を後ろにまとめ、淡い花柄のエプロンをつけた彼女は、いつも店の奥で静かにパッチワークを縫っている。佐和子さんのパッチワークには、不思議なあ...
食べ物

マンゴー色の記憶

南風が吹き抜ける午後、古びた商店街の一角にある果物店「みなみ屋」で、ひとりの女性が立ち止まった。「今年も、もう入ってきたのね」彼女の目は、店先に並べられた艶やかなマンゴーに釘づけだった。女性の名は早苗(さなえ)、五十三歳。近くの図書館で働く...
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白い月、チーズの香り

陽子は都会の喧騒から逃れるように、静かな港町に移り住んだ。背中を押したのは、祖母の遺した古い家と、焼き菓子づくりへの飽くなき情熱だった。会社勤めに疲れたある日、陽子は祖母の古いレシピノートを読み返しながら、ふと決意した。「チーズケーキだけの...
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ガラスの記憶

夏の日差しが窓から差し込む午後、古道具屋「凪」に一人の男が現れた。無精ひげを蓄え、やや色褪せたシャツを着たその男の名は高倉悠一。年齢は四十半ば。職業は自称・花瓶収集家だった。「この辺りで、古いガラスの花瓶を扱ってるって聞いてね」そう言って高...
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ひまわり畑の約束

夏の終わりが近づくある日、遥(はるか)は久しぶりに祖母の住む田舎町を訪れた。駅を降りると、蝉の声が耳をつんざき、強い陽射しが肌を刺した。遠くに見える山々と田んぼの緑は、子どもの頃と何も変わっていない。祖母の家は町外れにあり、そこには広いひま...
食べ物

エビフライになりたかったエビ

港町・潮見町には、ちょっと変わった老舗の洋食屋「マルヤ洋食店」があった。創業は昭和初期。店主の孫・マコトが三代目として厨房に立っていた。店の名物は、巨大なエビフライ。「まるでぬいぐるみみたい!」と子どもたちが喜ぶほどのサイズだった。ある日の...
冒険

モルモットの大冒険 〜チモシーの約束〜

その日、小さなケージの中に暮らしていたモルモットのチモシーは、いつもと違う風の匂いを感じた。ケージの扉がほんの少しだけ開いていたのだ。飼い主のリナが掃除中にうっかり閉め忘れたらしい。「これは、チャンス……!」チモシーの胸が高鳴った。外の世界...
ホラー

カーナビの女

「なあ、この道、本当に合ってるのか?」深夜の山道。大学時代の友人3人で旅行に出かけた帰り道、ナビの案内に従っていたものの、車は舗装も怪しい細い道に入り込んでいた。運転していたリョウは苛立ち気味に尋ねた。助手席のコウジはスマホを覗き込みながら...
食べ物

風のうどん

香川県観音寺市の山あいに、小さな製麺所があった。店の名は「風のうどん」。のれんが風に揺れ、誰にも見つけられないような場所に、ひっそりと佇んでいた。店主の名は結城遥(ゆうき・はるか)。三十代の半ば、腰まで届く黒髪を後ろで束ね、白い割烹着を身に...