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未来が遅れてやってくる

この町では、未来が少し遅れて届く。明日の天気も、来月の流行も、人生の転機さえも、必ず本来の時刻より遅れてやってくるのだ。原因は誰にも分からない。町の中央にある古い時計塔が止まった日からだ、と言う人もいれば、海の向こうで何かが壊れたのだ、と囁...
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消えかけの約束

町の外れに、小さな掲示板が立っている。そこには、もう誰も守れなくなった「約束」だけが貼られていた。「また来年、ここで会おう」「必ず帰る」「ずっと一緒にいよう」紙は日に焼け、文字は薄れ、端から静かに消えかけている。それらはすべて、果たされなか...
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時間の隙間に落ちた声

その声は、いつも決まって同じ時刻に聞こえた。午前二時十七分。秒針が一度だけ跳ね、時計が一瞬だけ息を止める、その隙間。最初は風の音だと思った。古いアパートの廊下は夜になるとよく軋むし、遠くの踏切の残響が部屋まで届くこともある。けれど、ある夜、...
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記憶よりも薄い光

夜明け前、町の端にある古い駅に、記憶よりも薄い光がともるという噂があった。誰かが強く思い出そうとした瞬間にだけ、ホームの隅で瞬く、名もない光。見た者は皆、理由を説明できず、ただ胸の奥が静かに痛むのだと言う。私はある日、その駅で働く清掃員の代...
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忘れられなかった名前

町の名簿から、ある日ひとつの名前が消えた。役所の掲示板でも、学校の出席簿でも、古いアルバムの写真の裏でも、その名前だけが不自然に空白になっていた。人々は不思議に思うこともなく、「最初からなかったのだろう」と納得してしまう。名前を失うことは、...
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誰にも届かなかった夜

夜は、誰かに届くために存在しているのだと、彼はずっと思っていた。街の明かりが消え、電車の音も遠ざかるころ、古いアパートの一室で彼は窓を開ける。風はほとんど吹かず、カーテンだけが微かに揺れた。夜は深く、静かで、まるで耳を澄ませているようだった...
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静かに残る灯り

町の外れに、取り壊しを待つ古い発電所があった。送電線はすでに切られ、建物は夜になると真っ暗になるはずだったが、なぜか一つだけ、奥の制御室に小さな灯りが残っていた。誰もその理由を知らない。子どもたちは「幽霊のランプ」と呼び、大人たちは見ないふ...
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世界の端で待ち合わせ

世界の端には、古いベンチがひとつだけ置かれている。地図には載っていないが、確かにそこは世界の端だった。海でも崖でもなく、ただ地面がそこで終わっていて、その先は薄い光の霧に溶けている。踏み出そうとすれば足は宙に浮き、引き返すこともできる。不思...
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昨日に置いてきたもの

朝、靴ひもを結ぼうとして、結べないまま立ち尽くした。指先は動くのに、なぜか輪が作れない。昨日、何かを置いてきたせいだと、理由もなく思った。それは駅前の古い歩道橋の下だった。夕方、雨が降り始め、信号待ちの人波が濁った川のように揺れていた。わた...
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まだ終わっていない話

夜になると、この町では未完の話が増える。たとえば、駅前の古い掲示板に貼られたままの募集広告。「至急。続きを探しています。」とだけ書かれ、連絡先は途中で消えている。雨ににじんだ文字は、まるで書いた本人が言葉を言い切れなかったみたいだ。僕は未完...