ホラー 鏡の中の声 夜、大学の課題を片付けていた翔太は、机の上の鏡に視線を落とした。それは小さな手鏡で、幼い頃からなぜか手放せずに持ち歩いているものだ。枠は黒ずみ、銀色の反射面には微かに曇りがある。けれど鏡を見ると不思議と落ち着くので、翔太は部屋の片隅に立てか... 2025.09.13 ホラー
食べ物 白い小さな幸せ 春の終わり、牧場の朝はまだ少し冷たい風が吹いていた。美緒は牛舎の扉を開けると、牛たちがのんびりと反芻している姿を眺めた。小さい頃から牛の匂いも鳴き声も日常で、都会の友人に話すと驚かれるが、美緒にとってはどこか安心する音と香りだった。彼女の家... 2025.09.13 食べ物
食べ物 甘酸っぱい約束 川沿いにある小さな町に、悠真という青年が暮らしていた。彼は昔から人付き合いが得意ではなく、どこか影を抱えたような雰囲気を纏っていた。そんな彼が唯一心を許せる存在が「ラズベリー」だった。赤く小さな果実は、彼にとってただの食べ物ではなく、心の奥... 2025.09.11 食べ物
面白い カラン坊の約束 小さな町の雑貨屋の棚の隅に、一つの古びたブリキの貯金箱が置かれていた。色は少しくすみ、表面には細かな傷がついている。それでも、丸い体に描かれた赤と青の模様は、どこか懐かしい温もりを感じさせた。その貯金箱は、何十年も前に作られたものだった。子... 2025.09.11 面白い
食べ物 かきのたね日和 健太は昔から「かきのたね」が好きだった。オレンジ色の小さな柿の種と、塩気の効いたピーナッツ。そのシンプルな組み合わせに、彼はなぜか無性に惹かれてきた。子供の頃、父が晩酌の横に置いていたのをつまみ食いして以来、気がつけば自分の部屋の机の引き出... 2025.09.11 食べ物
面白い 緑に包まれて 健一がツタに惹かれるようになったのは、小学生の頃に祖母の家を訪れたときのことだった。古びた洋館風の家の外壁を覆うように伸びていたツタは、夏には濃い緑で家を涼しく包み、秋には赤や黄へと色づき、季節の移ろいをまるごと映し出していた。祖母はよく言... 2025.09.11 面白い
食べ物 豚肉好きの物語 浩一は、自他ともに認める「豚肉好き」だった。牛肉よりも、鶏肉よりも、魚よりも、とにかく豚肉を愛していた。トンカツのサクサク感とジューシーな甘み、角煮のとろけるような食感、しょうが焼きの香ばしい匂い……どんな料理に姿を変えても、豚肉は彼の心を... 2025.09.09 食べ物
食べ物 モロヘイヤの緑に包まれて 夏の朝、畑に立つと、独特の青々とした香りが風に乗って鼻をくすぐった。真っ直ぐ伸びた茎に、小さく艶やかな葉をたたえたモロヘイヤが、陽を受けて光っている。「今年もよく育ったなぁ」そうつぶやいたのは、定年後に農業を始めた和夫だった。元々は会社勤め... 2025.09.09 食べ物
食べ物 アーモンドの記憶 健一がアーモンドという食べ物に心を奪われたのは、小学生の頃に祖母の家で食べた一粒がきっかけだった。その日、夏休みの宿題を広げたちゃぶ台の上に、祖母が小さなガラス瓶を置いた。中には飴玉のように見える丸い茶色の実がぎっしり詰まっている。「これは... 2025.09.09 食べ物
食べ物 思い出のハヤシライス 「あの味、もう一度食べたいな」ふと、そんな言葉が口をついて出たのは、引っ越しの段ボールを整理しているときだった。大学を卒業して、東京の会社に就職が決まり、ひとり暮らしを始めたばかりの春。段ボールの中には、懐かしい写真や、学生時代のノート、そ... 2025.09.09 食べ物