食べ物

牛タンと君の約束

仙台の小さな居酒屋、「炭火焼まる福」。そこで働く青年・直樹は、牛タンが好きだった。いや、好きなんて言葉じゃ足りない。牛タンのために生きている、と言っても過言ではないくらいだ。炭火でじっくり焼かれ、肉厚なのに柔らかい。噛むたびに広がる旨味と、...
食べ物

やさしさはプリンのかたち

高橋杏(たかはし・あん)はプリンが好きだった。いや、「好き」という言葉ではとても足りない。もはや人生における存在理由のひとつといっても過言ではない。朝食にプリン、昼もコンビニでプリン、夜はスーパーで買った特売プリンで一日を締めくくる。もちろ...
動物

しぶきとソラと秘密の池

ソラは、小さな町に住むゴールデンレトリバーの男の子。光るような金色の毛並みと、くりくりした目がチャームポイント。彼にはひとつ、大きな特徴があった——水が大好きでたまらないのだ。朝、町の川沿いを散歩するたびに、水面に映る自分の顔に向かって吠え...
面白い

わすれもののほんだな

まちのはずれに、ちいさな古本屋がありました。名前は「ふることば書店」。木の看板に、色あせた金色の文字がほこりをかぶっています。この店をひとりで切り盛りしているのは、40代の男の人。名前は安藤(あんどう)さん。いつも無口で、店の奥にこもり、誰...
面白い

ラスト・ラン

高校三年の秋、渡辺翔太は最後のマラソン大会に臨もうとしていた。風は冷たく、遠くの山がうっすらと紅葉に染まり始めている。グラウンドにはクラスメイトたちの笑い声が響いていたが、翔太の心は重たかった。彼はかつて陸上部のエースだった。中学時代は数々...
食べ物

甘納豆の手紙

その町には、昔ながらの駄菓子屋「たけうち商店」があった。木造の店は時代の流れに取り残されたようにぽつんと立ち、今では店主の竹内トメばあさんが一人で切り盛りしている。色褪せたのれんをくぐると、カラフルなあめ玉やビニール袋に詰まった駄菓子が並ん...
面白い

まだ ここにいる

むかしむかし、深い森の奥に、ひとつの古い切り株がありました。その切り株は、もとは大きな樫の木でした。数百年も生きてきたその木は、鳥たちの巣になり、リスのかけっこの舞台になり、森の仲間たちにとって、なくてはならない存在でした。けれどある日、森...
不思議

はにわのまにまに

雨の降る春の日、駅から少し離れた団地の一室に、ひとりの若い女性が引っ越してきた。彼女の名前は中谷 麦(なかたに むぎ)。年は二十七。職業は図書館司書。趣味は――はにわ収集。「なんでそんなに好きなの?」とよく聞かれる。答えはいつも同じだ。「な...
食べ物

ただいま、ごはん

小町悠(こまち ゆう)は、生まれたときからお米が好きだった。赤ん坊のころはミルクよりおかゆに喜び、小学生になるころには炊き立てのご飯の香りで目を覚ました。高校の卒業文集に「将来の夢:お米屋さん」と書いたほどである。だが、大学進学とともに都会...
不思議

星屑パン屋と流れ星の願い

とある小さな町に、「星屑パン屋」と呼ばれるパン屋があった。町外れの丘の上にぽつんと建っているその店は、夜になると不思議なことが起こる。パンが星のかけらのように光りだし、風に乗ってふわりと浮かぶこともあるという。そんな噂が子どもたちの間で囁か...