面白い 床を這う勇者 田中陽向(たなかひなた)は、バレーボールが好きでたまらなかった。中学の入学式の日、体育館の端で見かけた先輩たちの練習に、陽向は心を奪われた。ジャンプして、ブロックの壁を抜く鋭いスパイク。仲間が叫び、必死でボールを追う姿気づけば、胸が高鳴って... 2025.07.27 面白い
面白い セーヌに浮かぶ手紙 七月の朝、アンヌはサン・ルイ島のカフェに座って、いつものカフェ・クレームをすすった。目の前には、朝焼けに染まるセーヌ川。ノートルダムの尖塔が川面に映り、船がゆっくりと通り過ぎる。アンヌは観光客ではない。二年前に日本から越してきて、パリの古本... 2025.07.22 面白い
面白い ガラスの向こうの未来 小さな町の図書館に、謎めいた本があった。表紙には「元素と人類」とだけ書かれ、誰が借りたのかもわからない古びた本。中学二年の圭介は、たまたま手に取ったその本に心を奪われた。見たこともない周期表、化学式、そして原子の構造図。無数の粒が集まり、形... 2025.07.21 面白い
面白い 三角屋根の向こうに 幼い頃、奈央は母の読んでくれる絵本が大好きだった。特にお気に入りだったのは、一冊の外国の絵本。緑の草原にぽつんと建つ、白い壁と赤い三角屋根の家。その家には大きな窓があり、光があふれ、煙突からはいつも温かい煙が立ちのぼっていた。「こんな家に住... 2025.07.21 面白い
面白い 風の音が聞こえる 中村陸(なかむら・りく)、二十歳。彼は物心ついたときから空手をやっていた。父は町道場の師範で、少年の頃は家でも道場でも常に父の厳しい指導があった。泣いた日も数知れない。だが、拳と足でぶつかり合うあの瞬間にだけ、自分の心がすべて解き放たれるよ... 2025.07.19 面白い
面白い 静寂の音に耳をすます 朝霧がまだ残る京都の小径を、木村沙織は静かに歩いていた。両手には手帳と万年筆、肩にはお気に入りのリュック。彼女の趣味は寺巡り。特に古いお寺の静寂の中に身を置くと、心のざわつきが洗い流されるような感覚になるという。かつては都内の広告代理店で働... 2025.07.16 面白い
面白い 海の森を守る人 瀬戸内海に面した小さな町に、海藻の生態を研究している一人の女性がいた。名前は高梨(たかなし)柚子、三十五歳。かつて東京の大学で海洋生物学を専攻し、卒業後は研究所に勤めていたが、都会の喧騒と距離を置くようにして故郷の町へ戻ってきた。彼女が心を... 2025.07.14 面白い
面白い 銀色の夢、青の地球 杉山遼は、幼いころからずっと、宇宙服に憧れていた。初めて宇宙の映像を見たのは、小学一年生の冬。テレビに映る国際宇宙ステーションと、そこに滞在する宇宙飛行士の姿に、息をのんだ。無重力の中でふわふわと漂う彼らの背中にある白い宇宙服――分厚く、機... 2025.07.12 面白い
面白い マリーゴールドの手紙 祖母の庭には、毎年夏になるとマリーゴールドが咲き誇った。橙と黄色の混ざったその花たちは、まるで太陽の欠片のようにまぶしく、子どもの頃の私は、それを見るたびに心が浮き立ったものだった。高校を卒業し、東京の大学に進学した私は、地元に帰ることが少... 2025.07.12 面白い
面白い バケットハットと夏の追憶 蒼井遥(あおいはるか)は、バケットハットが好きだった。きっかけは、小学五年生の夏休み。母親が近所の手芸教室で作ってくれた、白地にひまわり模様のバケットハットが始まりだった。それを被ると、夏の匂いが一気に広がった気がした。照りつける太陽、アス... 2025.07.11 面白い