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エンドロールまで残る席

夕暮れの街に、もう看板の灯らない映画館がある。かつては週末になると行列ができ、ポップコーンの匂いが風に混じったその建物は、今ではシャッターの隙間から埃を吸い込むだけだ。閉館から一年、取り壊しを前にした最後の夜、管理人はひとりで客席に足を踏み...
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記憶銀行

街のはずれに、その銀行はあった。看板には小さく「記憶銀行」とだけ書かれている。お金は一切扱わない。その代わり、忘れたい記憶を預かる——それがこの銀行の仕事だった。重い扉を押して中へ入ると、静かな空気が満ちている。金庫室の代わりに並ぶのは無数...
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嘘の日に、本当を言った

町では年に一度だけ、「嘘の日」と呼ばれる日があった。その日は、口から出た嘘がすべて本当になってしまう。だから人々は、朝から慎重だった。冗談も、照れ隠しも、軽い見栄も許されない。八百屋の主人は「今日は大根が世界一甘いですよ」と言いかけて、ぐっ...
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鳴らない朝を信じる音

薄暗い六畳間の片隅で、壊れかけの目覚まし時計は今日も小さく息をしていた。白い文字盤には細かな傷が走り、長針はときどきためらうように震える。ベルを鳴らす金具も片方は緩み、もう片方は少し音程がずれている。それでも、彼は自分を「役目を失った」とは...
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足元で見ていた人生

私は、街外れのゴミ置き場に並べられた一足の靴だ。右足のかかとはすり減り、左足の甲には、雨の日にできた深いしみが残っている。誰ももう振り向かないけれど、私は確かに、ひとりの人間の人生を足元から見てきた。最初に彼に履かれたのは、春だった。箱を開...
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地図の外で待つ場所

古びた本屋のいちばん奥、埃をかぶった棚の影に、その本はあった。背表紙には金色の文字で「地図帳」とだけ書かれている。けれど開いてみると、そこに載っているのはどの地図にもない場所ばかりだった。ページの端には、かすれた字で注意書きがある。——ここ...
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世界の端で言葉を拾う

世界の端は、だれも見たことがない場所だと言われている。けれどリラは、そこがたしかに存在することを知っていた。なぜなら、風にまぎれて落ちてくる“言葉のかけら”を、何度も拾ったことがあるからだ。リラの村は、谷と雲の間にひっそりと挟まれている。朝...
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影を探しに行った日

朝、ユウは目を覚まして気づいた。自分の足もとに、いつも一緒にいたはずの「影」がなかった。部屋の床はただ白く、窓から差し込む光だけが淡く伸びている。手を振ってみても、立ち上がってみても、壁に映るはずの黒い形はどこにもない。「どこに行ったんだよ...
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返事をくれるラジオ

夕方になると、古い家の柱がきしみ、障子の向こうで風が鳴く。机の上には、祖父が最後まで大事にしていた茶色のラジオが置かれていた。角はすり減り、つまみは銀色の塗装がはげている。私が生まれる前からあったらしいそれは、今ではもう電源を入れても、砂嵐...
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届かない手紙のポスト

町はずれの小さな郵便ポストの前に、春菜は今日も立っていた。ポストの赤は少し色あせて、角のところにかすかな傷がある。彼女はその傷を指先でなぞってから、そっと白い封筒を差し入れる。からん、と軽い音。手紙は、今日もどこへも届かない。宛先はいつも同...