面白い

面白い

朝陽のポーズ

最初は、ただの気まぐれだった。三十歳を目前にした春、会社の健康診断で「運動不足による軽度の高血圧」と診断された中原詩織は、帰り道にふらりと立ち寄った駅前のヨガスタジオに足を踏み入れた。受付の女の子が笑顔で差し出した体験レッスンのパンフレット...
面白い

空に近づく夢

「おれ、いつかタワマン住むからさ」高校時代、そんなことを真顔で言ってクラスを笑わせていたのが高田誠だった。決して成績がよいわけではなかったし、運動も平均以下。おまけに実家は団地の五階、エレベーターなし。友人たちはその場ではからかい半分に「い...
面白い

薔薇と小径

坂の途中に、小さな香水店があった。古びた木の扉、ガラス越しに見える琥珀色の瓶。店の名前は《Le Temps des Roses(バラの時)》。この店には、いつも決まった時間にやってくる女性がいた。名前は澪(みお)。三十代半ば、黒髪をまとめ、...
面白い

サブウェイの約束

深夜0時。マンハッタンの地下鉄Cライン、59丁目の駅。ホームには数人の酔客と、スマホに夢中の若者たち。誰もが無関心を装い、目を合わせない。だが、その中にひとり、周囲とは明らかに違う雰囲気の少女がいた。リナは23歳。日本から一人でニューヨーク...
面白い

綿の祈り

四国の片隅、小さな町工場に、世界一のタオルを織り上げた男がいた。名を桐山宗一郎という。宗一郎が初めてタオルを織ったのは、まだ二十歳のときだった。父が営む小さな織物工場で、見よう見まねで機械を動かした。織り上がったタオルは分厚く、ゴワゴワして...
面白い

希望の窓際席

東京駅のホームに、早朝の霞が立ち込めていた。発車を待つ東海道新幹線「のぞみ」は静かにその巨体を横たえ、乗客たちはそれぞれの物語を抱えて車内へ吸い込まれていく。川村葵(かわむらあおい)、28歳。東京のIT企業に勤めて五年、仕事に追われる日々だ...
面白い

雲海の向こうに

山深い村、霧ヶ岳(きりがたけ)のふもとにある集落には、古くから「雲渡り(くもわたり)」という風習があった。秋が深まり、朝晩の冷え込みが強くなった頃、霧ヶ岳の山頂から望む雲海が、まるで天と地を隔てる白い海のように広がる。その海を「渡る」ために...
不思議

パンケーキ雲の旅

ある朝、ひとりぼっちの小さな町のパン屋「こむぎのしらべ」に、ふしぎなお客さまがやってきました。くるくるの金色の髪、白いマントに身を包んだ少女は、そっとカウンターに近づくと、声を潜めて言いました。「ふわふわの、雲みたいなパンケーキ、ありますか...
面白い

梅の木の下で

春まだ浅い三月の初め、山間の小さな町に、ひとりの女性が戻ってきた。名前は香織(かおり)。東京で十年ほど働いたあと、心の疲れを癒すため、かつて祖母と過ごした古い家に帰ってきたのだった。町は変わっていなかった。相変わらずの静けさ。人々はゆったり...
面白い

雨あがりの紙に

小さな港町のはずれに、一軒の古い喫茶店がある。「白兎(しろうさぎ)」という名のその店は、年季の入った木製のドアと、店主の手で描かれた季節ごとの風景画が飾られていることで知られていた。その絵を描いているのは、店主ではなく、毎週木曜日の午後に現...