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潮の花

海辺の小さな研究所に、ひとりの若い海洋生物学者がいた。名を佐久間海(さくま うみ)という。大学院を修了し、東京から南へ数百キロ離れたこの離島に赴任して三年目になる。彼女の研究対象は、潮間帯に棲むイソギンチャクだった。「イソギンチャクなんて、...
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海藻屋のしおり

小さな港町に、「海藻屋しおり」という看板を掲げた店があった。店主の名は本間しおり。三十代半ばの彼女は、町の誰よりも海藻が好きだった。わかめ、昆布、ひじき、アオサ、もずく——。乾物も生も、海藻という海の贈り物に彼女は目がなかった。子どもの頃か...
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ルイボスティーの午後

静かな午後、陽の光が古びたアパートの一室に柔らかく差し込んでいた。藍原美月(あいはら・みづき)は、お気に入りの白いカップにルイボスティーを注ぐ。赤みがかった透明な液体が湯気を立てるのを見つめながら、彼女はふっと息を吐いた。「やっぱり、この香...
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赤土の庭

その村は、四方を山に囲まれていた。舗装された道はなく、バスも一日に二本しか来ない。けれど、その村には特別なものがあった。赤土だった。山肌も畑も、庭先までもが赤かった。鉄分を多く含んだその土は、雨に濡れると濃く深い朱に染まり、太陽の下では乾い...
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霧の島の灯台守

嵐の夜、航海中の船が荒波に呑まれ、青年・タカシは意識を失った。目覚めた時、彼は見知らぬ浜辺に打ち上げられていた。周囲に人影はなく、聞こえるのは波音と風のざわめきだけ。そこは、地図にも載っていない無人島だった。タカシは助けを求めて島を歩き始め...
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黄昏レモンティー

静かな路地裏にひっそり佇む、レモンティー専門店「黄昏レモンティー」。木製の看板に描かれた一切れのレモンが、夕日に照らされると金色に輝く。店主の名は志村透(しむら とおる)、五十歳を目前にしてこの店を開いた。かつて透は広告代理店で働く忙しいサ...
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ビーチボールの空

真夏の午後、陽炎がゆらめく砂浜に、ひときわ目立つカラフルなビーチボールが空を舞っていた。強い海風に乗ってふわりと宙に浮かび、砂の上に落ちたかと思えば、また跳ね返って空を舞う。そのビーチボールを、まるで宝物のように目で追っていたのは、ひとりの...
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波の向こうへ

梅雨が明け、灼けつくような陽射しが海面を照らしていた。三十歳を過ぎたばかりの高橋悠人は、湘南の海岸に立っていた。会社を辞めて三ヶ月。理由を聞かれても「疲れた」としか言えなかった。毎日電車に揺られて同じ景色を見て、同じ資料を作り、同じようなメ...
動物

霧の森のヘラジカ

北海道、知床半島の奥深い原生林。霧が濃く立ちこめる朝、篠原涼(しのはら・りょう)はテントの前に腰を下ろし、静かに湯を沸かしていた。彼は東京の大学で動物行動学を教える准教授だが、この十年は毎年、夏の終わりになると知床の森に通い詰めていた。目的...
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すずらんの誓い

高原の奥深く、誰にも知られていない小さな谷に、一面にすずらんが咲く場所があった。その谷は「白鈴の谷」と呼ばれ、春の終わりにだけ白くかすむように花開くという。人々はそれをただの伝説だと笑ったが、本当にその谷を知る者は、たった一人しかいなかった...