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透明な素肌の約束

里香(りか)は、都心の広告代理店で働く三十二歳の女性だった。華やかな世界に身を置きながらも、彼女の鞄の中には、どこか素朴な、ラベルの小さなガラス瓶がいくつも入っていた。そこには「無添加石けん」「ホホバオイル」「化学成分不使用」の文字が並ぶ。...
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香りの手紙

小春はサシェが好きだった。サシェとは、香りを閉じ込めた小さな布の袋のこと。ドライフラワーやハーブ、精油を染み込ませた木のチップなどを包み込んだそれは、クローゼットの中でひっそりと香りを放つ。彼女の部屋には常に季節の香りが漂っていた。春にはラ...
動物

キリンのキキと空とぶ帽子

アフリカの広いサバンナに、首のとても長いキリンの女の子が住んでいました。名前はキキ。まだ小さな子どもキリンですが、背はもう大人のシマウマよりずっと高く、首を空に向けると、遠くの雲まで見えるほどでした。キキには夢がありました。それは「空を飛ぶ...
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オルゴールの谷

アルプスのふもと、小さな谷あいの町に、ルカという名の老職人が暮らしていた。ルカは町でただ一人のオルゴール職人だった。年老いた手は震え、眼鏡越しの目はかすみがちだったが、その手から生まれるオルゴールは、どれもまるで心を持ったかのように、人の記...
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朝陽のポーズ

最初は、ただの気まぐれだった。三十歳を目前にした春、会社の健康診断で「運動不足による軽度の高血圧」と診断された中原詩織は、帰り道にふらりと立ち寄った駅前のヨガスタジオに足を踏み入れた。受付の女の子が笑顔で差し出した体験レッスンのパンフレット...
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空に近づく夢

「おれ、いつかタワマン住むからさ」高校時代、そんなことを真顔で言ってクラスを笑わせていたのが高田誠だった。決して成績がよいわけではなかったし、運動も平均以下。おまけに実家は団地の五階、エレベーターなし。友人たちはその場ではからかい半分に「い...
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薔薇と小径

坂の途中に、小さな香水店があった。古びた木の扉、ガラス越しに見える琥珀色の瓶。店の名前は《Le Temps des Roses(バラの時)》。この店には、いつも決まった時間にやってくる女性がいた。名前は澪(みお)。三十代半ば、黒髪をまとめ、...
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サブウェイの約束

深夜0時。マンハッタンの地下鉄Cライン、59丁目の駅。ホームには数人の酔客と、スマホに夢中の若者たち。誰もが無関心を装い、目を合わせない。だが、その中にひとり、周囲とは明らかに違う雰囲気の少女がいた。リナは23歳。日本から一人でニューヨーク...
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綿の祈り

四国の片隅、小さな町工場に、世界一のタオルを織り上げた男がいた。名を桐山宗一郎という。宗一郎が初めてタオルを織ったのは、まだ二十歳のときだった。父が営む小さな織物工場で、見よう見まねで機械を動かした。織り上がったタオルは分厚く、ゴワゴワして...
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希望の窓際席

東京駅のホームに、早朝の霞が立ち込めていた。発車を待つ東海道新幹線「のぞみ」は静かにその巨体を横たえ、乗客たちはそれぞれの物語を抱えて車内へ吸い込まれていく。川村葵(かわむらあおい)、28歳。東京のIT企業に勤めて五年、仕事に追われる日々だ...