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晴れ女と雨の街

真奈(まな)は、自他ともに認める「晴れ女」だった。運動会の日も、旅行の日も、大事な発表会の日も、すべて青空が広がっていた。子どものころからそうだった。朝から土砂降りでも、彼女が出かける時間にはぴたりと止んで、空が割れたように日が差す。まるで...
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夜明けのスタンド

午前4時、まだ街が眠る時間。中山修二はいつものようにガソリンスタンドのシャッターを開けた。郊外の片隅にあるこのスタンドは、24時間営業という名目だが、深夜帯の客はほとんどいない。それでも誰かがいなければならない。修二は48歳。妻とは数年前に...
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氷を愛する男

雪の舞う町、北ノ沢に住む一人の男がいた。名は白崎仁。年齢は四十を越えていたが、彼には少年のような目の輝きがあった。それは、「氷」がもたらすものだった。白崎は地元の高校で物理の教師をしていた。真面目で口数は少ないが、生徒からの信頼は厚かった。...
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ドクダミのにおい

古い木造アパートの二階。陽のあたらない北側の部屋に、百合子(ゆりこ)はひっそりと暮らしていた。部屋には特に目を引くものはなかった。シンプルなローテーブルに、畳の上に座布団。テレビもなく、代わりに窓際の棚には小さな急須と茶器が並んでいる。そし...
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ティッシュの哲学

高木亮(たかぎ・りょう)は、いわゆる“ティッシュマニア”だった。といっても、鼻炎に悩まされているわけでも、コレクターとして珍品を集めているわけでもない。彼の関心は「質」ただ一点に絞られていた。「柔らかさ」「吸収力」「破れにくさ」「肌への優し...
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コバルトブルーの海

その海は、どこまでも青かった。空の青とも違う、群青とも紺碧とも違う、深くて澄んだ、どこか懐かしい色――コバルトブルー。まるで誰かの記憶の中からすくい上げたような、そんな色だった。遥は、毎年夏になると祖母の住む離島を訪れていた。島には電車も信...
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時の砂を愛する人

高瀬結は、古道具屋「風詩(ふうし)」の奥にある小部屋で、砂時計を一つずつ丁寧に並べていた。店主の娘として生まれた彼女は、小さい頃から砂時計に特別な魅力を感じていた。それは祖父の影響だった。祖父はかつて時計職人で、時間という目に見えないものを...
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雪の行方

春が来るたび、村は雪で悩まされていた。山あいの小さな集落、湯ノ下村。豪雪地帯として知られ、冬の終わりには道路の脇に3メートル近くも積み上げられた雪の壁が残る。その処理に、村は多くの予算と労力を割いていた。排雪作業にかかる燃料代も馬鹿にならな...
動物

芝桜の丘のシマリス・シモン

丘のふもとに、小さな村がありました。春になると、村の上に広がる丘は、一面の芝桜でピンクや白、紫に染まります。その美しさを一目見ようと、森の動物たちや旅人たちが集まってくるのです。けれど、この芝桜が毎年美しく咲き誇るのには、ひとつ秘密がありま...
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紫陽花の咲くころに

雨の降る音が、今年も彼女の心を揺らす。藤村遥(ふじむら・はるか)は、梅雨の季節になると決まって、駅から少し外れた丘の上にある小さな公園へと足を運ぶ。そこには、色とりどりの紫陽花が群れをなして咲いていた。青、紫、ピンクに白。雨に濡れるたびに花...