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イランイランの香りに包まれて

休日の午後、涼子は小さなアロマランプに火を灯した。オイル皿に数滴落としたのは、イランイランの精油。ふわりと甘く、どこかエキゾチックで、同時に安らぎを与えるような香りが部屋に広がっていく。目を閉じると、潮風が吹く南の島の景色が脳裏に浮かんだ。...
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月明かりの子守唄

ある村の外れに、小さな家がありました。そこには若い母親と、生まれて間もない赤ん坊が暮らしていました。父親は遠い町へ働きに出ていて、母と子だけで夜を過ごすことが多かったのです。夜になると、赤ん坊は不思議と目をぱっちり開け、泣き声をあげることが...
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空を渡る約束

小さな地方空港の片隅に、今はもう飛ばなくなった古い飛行機が展示されていた。銀色の機体はところどころ塗装が剥げ、翼には鳥の羽根が張り付いている。だが、その姿には不思議な温かさが宿っていた。春斗はその飛行機を見るのが好きだった。祖父に連れられて...
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音の繭

大学進学を機に一人暮らしを始めた健太は、引っ越し荷物の中に父から譲り受けた古いヘッドフォンを入れていた。黒い革が少し剥がれ、金属のフレームには細かな傷が走っている。新品のような輝きはとうになかったが、耳を覆うと不思議と世界が静まり返り、音楽...
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きゅっと締めて、前へ

朝の通勤電車の中で、佐藤はふと自分の胸元に目を落とした。結び目がやや歪んだネクタイが、ぎこちなく彼のシャツを押さえ込んでいる。鏡を見たときはきちんと結べていたはずなのに、電車に揺られているうちにずれてしまったらしい。彼にとってネクタイは、た...
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金木犀の下で

秋の風が少し冷たさを帯びてきた頃、町の路地裏に金木犀の香りが漂い始める。橙色の小さな花が塀越しにのぞくと、人々は立ち止まり、懐かしいものを胸いっぱいに吸い込む。香りは記憶を呼び覚ます扉のようで、誰かにとっては子どもの頃の帰り道であり、誰かに...
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梅昆布茶は心を結ぶ

春の風がまだ肌寒さを含んでいたある日、商店街の片隅に小さな茶舗「一服庵」があった。棚には緑茶やほうじ茶の缶が並び、奥には古びた急須や茶器が整然と置かれている。その店に一つ、控えめに目立たぬよう置かれていたのが「梅昆布茶」であった。梅昆布茶は...
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木の温もりを伝える箸

山あいの小さな町に、古びた工房を構える箸職人・庄吉がいた。年は七十を越え、白髪と深い皺が刻まれていたが、その眼差しは木を前にすると若者のように輝いた。庄吉の箸は「手に馴染む」と評判で、遠くの都会からも注文が来るほどだった。しかし彼は決して大...
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風を越えて

中学二年の春、陸上部の練習場に並ぶ白いハードルを前に、遥(はるか)は足を止めていた。背丈ほどもあるそれらは、彼女にとって巨大な壁のように見えた。「走るのは好きだけど……これを飛び越えるなんて」短距離が得意で入部したはずなのに、顧問に勧められ...
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木のおもちゃのぬくもり

陽介は三十代半ばの木工職人だった。彼の工房には、削りかけの木片や、乾燥させた板、そして色とりどりの木のおもちゃが並んでいた。積み木、車、動物の形をしたパズル……どれも角が丸く磨かれ、手にしたときに温かみを感じるよう工夫されている。子どものこ...