不思議

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夢の修理屋

夜と朝のあいだにある細い路地を、だれも知らないときだけ開く扉がある。古い歯車の看板には、消えかけた金色の文字でこう書かれていた――「夢の修理屋」。気づけば、春斗はその前に立っていた。眠っていたはずなのに、足元には石畳のひんやりとした感触があ...
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真夜中だけの終着駅

真夜中、町の灯りがすっかり消えた頃、線路の向こうから低い風のような音が近づいてくる。ダイヤには載っていない電車――“真夜中の電車”は、もう誰も使わなくなった駅にだけ止まる、不思議な列車だった。桐生灯里は、その噂を子どもの頃から聞いていた。廃...
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雨にだけ現れる人たち

放課後、校門を出た瞬間、空が泣き出した。大きな雨粒がアスファルトを叩き、世界の輪郭を少しずつ溶かしていく。傘を忘れたことに気づいた私は、しばらく軒下で雨宿りをするつもりだった。けれど、その時――人の流れの中に、おかしな存在が混じっているのに...
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おかえり、ポコ

商店街のはずれに、小さな古道具屋があった。色あせた看板と曇ったガラス。店先には、誰かの時間を静かに抱えたものたちが並んでいる。その棚の奥に、一匹のくまのぬいぐるみが座っていた。名前は“ポコ”。胸のボタンは一つなく、右耳には小さなほつれ。けれ...
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夜になると動き出す図書館の本たち

町のはずれに、古い石造りの図書館がある。昼間は子どもたちの笑い声やページをめくる音でにぎわい、夜になると静かな闇に包まれる。その扉が閉ざされるときこそ、図書館の「もうひとつの時間」が始まるのだ。夜の十二時の鐘が遠くで鳴る。すると最奥の本棚の...
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走れ、ぬくもりのジンジャーマン

むかしむかし、雪の降る町はずれに、小さな菓子工房がありました。古いオーブンと木の作業台、甘いスパイスの香りに満ちたその場所で、ある冬の夜、一人のパン職人が特別な生地をこねていました。生姜、シナモン、クローブ。最後にひとさじのはちみつを加え、...
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石垣の影の小人たち

森と町の境目に、古い石垣が連なっている場所があった。昼間は誰も気にも留めない苔むした石の影だが、夜になると、そこは小人たちの世界へと姿を変える。背丈は人の手のひらほど、靴は木の実の殻、帽子は枯れ葉で編まれている。彼らは自分たちを「縫い目守り...
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ウォンバットの小さな灯り

タスマニアの深い森に、「ルミ」と呼ばれる一匹のウォンバットが暮らしていた。丸い体に短い足、そしてつぶらな瞳。周りの動物たちは皆、彼を“のんびり屋のルミ”と呼んでいた。実際、ルミは朝の陽が高くなるまで巣穴から出てこないし、歩けばとことこ、食べ...
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雲の上のゴンドラ便

高原の町・ミストロッジには、朝になると不思議な音が響く。チリン、チリン——まるで小さな鐘が風に乗って転がるような涼しい音。それは、町と雲の上を結ぶ一本のゴンドラが動き出した合図だった。ゴンドラの名前は「スカイメロウ」。青い湖のような色をした...
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星を飲む町

その町には、不思議な習慣があった。年に一度、夜空から星が降りてくるのだ。大きな隕石ではない。手のひらほどの光の粒が、ふわふわと舞い降り、路地や屋根の上に静かに積もる。町の人々はそれを「星のしずく」と呼び、集めては小さな瓶に閉じ込め、ひと口ず...