ホラー

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路地裏の赤い手形

その街には、誰もが知っているが口には出したがらない都市伝説があった。駅前から少し離れた古い商店街の裏手、人気のない細い路地を真夜中に通ると、壁に赤い手形が浮かび上がるというのだ。ただの落書きだろう、酔っぱらいがつけた手垢だろう。そう笑い飛ば...
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海の底の囁き

夏の夜、港町の古い桟橋には、今でも誰も近づかない時間がある。潮が一番満ちる丑三つ時。海面は静まり返り、風ひとつ吹かないのに、底から「声」が湧き上がるというのだ。大学生の悠真は、地元の友人からその噂を聞いた。都市伝説の類だと笑い飛ばしたが、ど...
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鏡の中の声

夜、大学の課題を片付けていた翔太は、机の上の鏡に視線を落とした。それは小さな手鏡で、幼い頃からなぜか手放せずに持ち歩いているものだ。枠は黒ずみ、銀色の反射面には微かに曇りがある。けれど鏡を見ると不思議と落ち着くので、翔太は部屋の片隅に立てか...
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夜更けのチャイム

美咲(みさき)が一人暮らしを始めたのは、大学進学の春だった。木造二階建ての古いアパート。築五十年は経っているというが、家賃が安く、通学に便利な場所だったため即決した。最初の数日は何も起きなかった。古い建物特有の、木がきしむ音も気にならない程...
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鏡の奥の家族

春の終わり、大学の新生活にも慣れ始めた頃。沙耶(さや)は、古びたワンルームマンションに引っ越した。安さと駅近が決め手だったが、内見のとき、やけに大きな姿見が壁に固定されているのが気になった。「これは前の住人が置いていったものですが、外そうと...
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カーナビの女

「なあ、この道、本当に合ってるのか?」深夜の山道。大学時代の友人3人で旅行に出かけた帰り道、ナビの案内に従っていたものの、車は舗装も怪しい細い道に入り込んでいた。運転していたリョウは苛立ち気味に尋ねた。助手席のコウジはスマホを覗き込みながら...
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囁く森

深い山奥に、「囁く森」と呼ばれる場所がある。正式な名前ではない。地元の人々がそう呼んでいるだけだ。そこでは、夜になると森が何かを囁くというのだ。風の音に紛れて、人の声のようなものが聞こえる。助けを求める声、泣き声、時には笑い声も。大学で民俗...
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水底からの呼び声

私の通う高校には、古びた屋内プールがある。夏でも水は冷たく、壁には黒ずんだカビがこびりつき、天井の蛍光灯はところどころ点滅していた。最近では新設されたスポーツセンターに生徒が流れ、ここを使う者はほとんどいない。それでも、私はこの場所が嫌いじ...
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閉ざされた記憶

幼い頃の記憶はあいまいだが、どうしても忘れられないものがある。それは、暗く、狭く、息苦しい空間で泣き叫んでいた感覚だ。広瀬雅人は子どものころから極端な閉所恐怖症だった。エレベーター、電車のトンネル、狭い会議室——どこにいても逃げ場のない環境...
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消えた最終電車「カゲサキ線の怪」

東京都心から少し外れた場所に、「影崎(カゲサキ)」という小さな駅があった。駅周辺は古びた商店街と昭和の面影を残す住宅地が広がっているが、近年は人口減少でゴーストタウンのように寂れていた。この影崎駅には、地元住民の間で古くから語り継がれる奇妙...