不思議

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ウォンバットの小さな灯り

タスマニアの深い森に、「ルミ」と呼ばれる一匹のウォンバットが暮らしていた。丸い体に短い足、そしてつぶらな瞳。周りの動物たちは皆、彼を“のんびり屋のルミ”と呼んでいた。実際、ルミは朝の陽が高くなるまで巣穴から出てこないし、歩けばとことこ、食べ...
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雲の上のゴンドラ便

高原の町・ミストロッジには、朝になると不思議な音が響く。チリン、チリン——まるで小さな鐘が風に乗って転がるような涼しい音。それは、町と雲の上を結ぶ一本のゴンドラが動き出した合図だった。ゴンドラの名前は「スカイメロウ」。青い湖のような色をした...
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星を飲む町

その町には、不思議な習慣があった。年に一度、夜空から星が降りてくるのだ。大きな隕石ではない。手のひらほどの光の粒が、ふわふわと舞い降り、路地や屋根の上に静かに積もる。町の人々はそれを「星のしずく」と呼び、集めては小さな瓶に閉じ込め、ひと口ず...
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蒼き鱗の約束

山脈のさらに奥深く、雲より高い峰の影に「蒼き鱗のドラゴン」が棲んでいた。村人たちはその存在を古くから語り継ぎ、恐れと畏敬の念を抱いていた。火を吐けば森を焼き尽くし、翼を広げれば嵐を呼ぶ――そう言われてきたが、実際にその姿を見た者は少ない。た...
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月映(つきばえ)の池

――村のはずれに、小さな池がある。周囲をぐるりと囲むように柳が立ち、風が吹くたびに細い枝が水面をくすぐる。池は深くも広くもないが、不思議と一年中、水が澄んでいた。夏の終わりには白い睡蓮が咲き、冬でも氷が厚く張らない。その池のそばに、よく座っ...
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星を飼う少女

ある町の外れに、古びたガラス工房があった。もう何年も前に店じまいしたその工房には、ひとりの少女が住んでいるという噂があった。名前を知る者はいない。ただ、人は彼女をこう呼んだ。「星を飼う少女」と。夜になると、その工房の天窓から微かな光が漏れる...
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緑の窓

午後の陽射しが公園の木々を黄金色に染めるころ、七瀬はベンチに座って文庫本を開いていた。休日の静かな午後、子どもたちの笑い声と鳩の羽ばたきが耳に心地よい。風がページをめくるのと同じ速さで、彼女のまぶたも時折重くなっていく。ふと気配を感じて顔を...
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パンケーキ雲の旅

ある朝、ひとりぼっちの小さな町のパン屋「こむぎのしらべ」に、ふしぎなお客さまがやってきました。くるくるの金色の髪、白いマントに身を包んだ少女は、そっとカウンターに近づくと、声を潜めて言いました。「ふわふわの、雲みたいなパンケーキ、ありますか...
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ニラと光る猫

町外れのアパートに、ニラが大好きな男が住んでいた。名は島田光太(しまだこうた)、三十六歳、独身。スーパーの青果売り場で働く彼は、毎日規則正しく仕事を終え、まっすぐ帰宅すると、冷蔵庫に入っているニラの束を取り出しては、ニラ玉、ニラ炒め、ニラう...
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琥珀色の美

朝、陽が差し込む台所で、千代はゆっくりとグラスにお酢を注いだ。リンゴ酢に蜂蜜をひとさじ。それをぬるま湯で割るのが、彼女の日課だった。かれこれ十年以上、毎朝欠かさず飲み続けている。理由はただひとつ。美しくあるためだ。「肌がつやつや」「血行がよ...