丘に立つ、二本のりんごの木

食べ物

丘の上に、一本のりんごの木が立っていた。
その木は村でいちばん古く、いちばん静かな存在だった。
幹には深いしわが刻まれ、枝は何度も折れ、また伸びてきた痕跡を残している。
春になれば白い花を咲かせ、夏には青い葉を揺らし、秋には赤く丸い実を実らせ、冬には雪を肩に積もらせながら、ただそこに在り続けていた。

この木の下には、毎年同じように人が集まった。
子どもたちは実を拾い、恋人たちは木陰で言葉を交わし、年老いた人はベンチに腰を下ろして空を見上げた。
りんごの木は何も語らなかったが、すべてを見ていた。

ある年、村に一人の少年がいた。
名をユウと言い、足が少し不自由で、他の子どもたちのように丘を駆け回ることができなかった。
ユウは毎日、杖をつきながら丘に登り、りんごの木の下で本を読んだり、枝の間を渡る風の音を聞いたりしていた。

「きみは、いつからここにいるの?」

ユウがそう問いかけても、木は答えない。
ただ、葉がそよぎ、りんごがかすかに揺れるだけだった。
それでもユウは、その沈黙が嫌いではなかった。
誰にも急かされず、比べられず、ただ一緒に時間を過ごしてくれる存在が、そこにあったからだ。

秋になると、木はいつもより多くの実をつけた。
赤く、重く、甘い香りを放つりんごたち。
ユウはその中から一つを選び、両手で大事に抱えた。

「来年も、また来るね」

そう言ってユウは家に帰った。

しかし冬が明け、春が来ても、ユウは現れなかった。
夏になっても、秋になっても。
村の人々は忙しく、誰もその理由を知らなかった。
ただ、りんごの木だけが、少年の足音を待っていた。

翌年の春、丘に新しい苗木が植えられた。
小さなりんごの苗だ。村の老人が言った。

「ユウがね、この木の実から育てた苗なんだ。自分は遠くへ行くことになったけれど、この丘に、りんごの木を残したいって」

風が吹き、古いりんごの木の枝が大きく揺れた。
まるで、長い息を吐くように。

それから何年も経ち、丘には二本のりんごの木が並んで立つようになった。
古い木と、若い木。
世代を越えて、同じ風を受け、同じ空を見上げながら。

古いりんごの木は、今日も静かに立っている。
語らず、動かず、それでも確かに、誰かの時間と記憶を支えながら。
赤い実が落ちるたび、そこには目に見えない物語が、そっと根を下ろしていくのだった。