ミユは子どもの頃から、ペロペロキャンディが好きだった。
どんなに大人になっても、あのカラフルでぐるぐると渦を巻いた飴を見るだけで、心が躍った。
幼い頃、祖母の家に遊びに行くたび、ミユは町角の駄菓子屋に立ち寄った。
そこで祖母が一つだけ買ってくれるのが、手のひらよりも大きなペロペロキャンディだった。
透明な袋の上からでも、赤、青、黄色の鮮やかな色が輝き、ミユはそれをゆっくりと舐めるのが好きだった。
甘さが舌に広がるたび、世界が優しく見えた。
高校生になったミユは、ペロペロキャンディのことを人前では話さなくなった。
子どもっぽいと思われたくなかったからだ。
でも、帰り道にコンビニで見かけると、こっそり買っては家でゆっくり楽しんだ。
そんなミユが大学生になった夏。
ある日、街中で偶然見つけたのは、小さな飴細工の店だった。
ガラス越しに並んでいたのは、どれも手作りの飴で、色も形も美しく、ミユは思わず引き込まれた。
「いらっしゃい」
店の奥から現れたのは、同い年くらいの青年だった。
「ペロペロキャンディが好きなんです」
思わず口にしたミユに、青年は少し驚いた顔をしたが、すぐににっこりと微笑んだ。
「僕もです。作るのも、舐めるのも」
その日から、ミユはその店に通うようになった。
青年の名はユウタ。
彼は子どもの頃から飴細工職人を目指し、ついにこの店を持ったのだという。
ユウタの作るキャンディは、どれも夢のように美しく、ミユは毎回新作が出るたびに胸を躍らせた。
ある日、ユウタが言った。
「ミユさん、ペロペロキャンディって、作ってみたことありますか?」
ミユは首を振った。
「じゃあ、一緒に作ってみませんか」
飴作りは思った以上に難しく、熱くて、手早く形を整えなければならなかった。
でも、ユウタが隣で笑いながら教えてくれるうちに、ミユの心はすっかりほぐれていった。
気づけば、ミユは子どもの頃のように、素直に笑っていた。
そして夏の終わり、ユウタが言った。
「ミユさん、僕の店で、ミユさんデザインのペロペロキャンディを出してみませんか?」
驚いたが、ミユは本気で考えた。
自分の好きだった色、形、甘さ。
幼い頃からの思い出を詰め込んで、ミユは一つのキャンディをデザインした。
名前は「なつのおもいで」。
赤、青、黄色の三色を優しく渦巻かせた、昔ながらの大きなペロペロキャンディだった。
発売の日、店には小さな行列ができた。
買ってくれた子どもたちが、笑顔でキャンディを舐めるのを見て、ミユの胸は熱くなった。
「大人になっても、好きなものを好きって言っていいんだね」
ユウタが隣で頷いた。
「好きは、人を笑顔にするから」
その夏、ミユは初めて、自分の“好き”を誰かと分かち合う喜びを知った。
ペロペロキャンディは、ただ甘いだけじゃない。
心を繋ぐ、小さな魔法だった。