夏の太陽が照りつける田舎の小さな村。
そこで育てられるスイカは、全国でも評判の甘さを誇る。
しかし、今年の夏、そのスイカ畑に奇妙なことが起こった。
村の少年・大地は、祖父のスイカ畑を手伝いながら育った。
朝早くから畑の見回りをし、草むしりをしながら、スイカの成長を見守るのが日課だった。
しかしある日、大地は驚くべき光景を目にする。
「……スイカが、動いてる?」
畑の一角で、スイカがゆっくりと転がっていた。
最初は風のせいかと思ったが、風が吹いていないのにスイカは勝手に転がり、時折ピョンと跳ねることもあった。
「まさか、妖怪スイカとか?」
大地は恐る恐る近づき、そっとスイカを抱え上げた。
するとスイカの表面に小さな顔のような模様が浮かび上がり、まるで表情を持っているかのように見えた。
「た、食べられたりしないよな……?」
恐る恐る指でつつくと、スイカはぴょこんと跳ね、大地の足元に収まった。
そして、まるで言葉を持たないペットのように、彼の後をついてくる。
大地はこの奇妙なスイカに「スイカ丸」と名付け、ひそかに育てることにした。
スイカ丸は畑を飛び跳ねながら楽しげに転がり、大地と過ごす時間を喜んでいるようだった。
ところが、その不思議な出来事が村の噂となり、スイカを買いに来た都会の業者が目をつけた。
「このスイカ、特別な品種なのか? うちの会社で売り出せば、大儲けできるぞ!」
業者はスイカ丸を手に入れようと、大地の祖父に高額な金額を提示した。
祖父は困惑したが、大地は即座に反対した。
「スイカ丸は商品じゃない! ただのスイカじゃなくて、生きてるんだ!」
しかし業者は諦めず、夜中に畑へ忍び込み、スイカ丸を盗もうとした。
大地は異変に気づき、懐中電灯を手に駆けつけると、スイカ丸は恐怖に震えながらも必死に逃げ回っていた。
「やめろ! スイカ丸を返せ!」
大地はスイカ丸を抱きしめ、必死で守った。
するとスイカ丸が突然、光を放った。
まるで畑全体を包み込むような緑色の光が広がり、業者は目をくらませて尻もちをついた。
翌日、村の長老がその光景を聞き、静かに語った。
「それは、村の伝説にある『命のスイカ』かもしれん。この村では昔から、ごく稀に心を持つスイカが生まれるという話がある。それが現れたということは、大地、お前が選ばれたのかもしれんな」
大地はスイカ丸を見つめ、優しく撫でた。
スイカ丸は、ぽんと小さく跳ねる。
それからというもの、大地とスイカ丸はますます仲良くなり、村の人々も彼らを温かく見守るようになった。
スイカ丸は特別な存在だったが、村に溶け込み、やがてその奇跡は、村の新たな伝説となったのだった。
夏の終わり、大地はふと思った。
「スイカ丸、お前はどこから来たんだろうな」
スイカ丸は、ただ優しく光るだけだった——。