町外れの小さな本屋の前には、一匹の三毛猫が住みついていた。
名前はミコ。
店主の老婦人が半ば飼っているようなものだったが、ミコは自由気ままな猫だった。
昼は店の入り口で日向ぼっこをし、夜になるとどこかへ消えていく。
ある月のきれいな夜、ミコは商店街を抜け、川沿いの小道を歩いていた。
すると、川のほとりに一人の少年が座っていた。
少年はまだ小学生くらいで、膝を抱えてうつむいていた。
「どうしたの?」とでも言うように、ミコは少年の足元にすり寄った。
少年は驚いて顔を上げ、少し戸惑いながらもミコの頭を撫でた。
「……僕、家に帰りたくないんだ」
少年はぽつりと呟いた。
話を聞くと、学校で友達と喧嘩をしてしまい、謝るのも怖くなって家に帰れなくなったのだという。
ミコはじっと少年を見つめた。
そして、ゆっくりと前足を伸ばし、少年の膝の上に乗った。
「なんだよ、重いよ」
少年は苦笑しながらミコの背中を撫でた。
ミコは小さく喉を鳴らしながら、しばらくその場に留まった。
やがて、夜風が冷たくなってきた頃、少年は小さく息をついた。
「……そろそろ帰ろうかな」
ミコはゆっくりと立ち上がり、先を歩き始めた。
まるで「ついておいで」と言うかのように。
少年は立ち上がり、ミコの後を追った。
家の近くまで来ると、ミコは一度だけ振り返り、少年と目を合わせた。
「ありがとう、ミコ」
少年がそう言うと、ミコは静かに尻尾を揺らし、夜の闇へと消えていった。
次の日、本屋の店主は不思議そうに呟いた。
「珍しいねえ、ミコ。昨夜はどこにも行かず、ここでずっと寝ていたみたいだよ」
それを聞いた少年は、そっとミコの背中を撫でた。
ミコは変わらぬ顔で、ただ静かに喉を鳴らしていた。
――それ以来、少年は時々、本屋を訪れるようになった。
そして、ミコもまた、まるで何かを見守るように、店の前で静かに座っていたのだった。