私はユウタ。
普通の大学生だけど、ちょっとだけ人と違う「好きなもの」がある。
それは——ナン。
あの、インドカレーと一緒に出てくる、ふわふわでもちもちしたパン。
最初にナンを食べたのは中学生の頃。
友達の誕生日で行ったインド料理屋で、焼きたてのナンを口にした瞬間、その優しい甘さと香ばしさに心を奪われた。
それ以来、私はナンの虜だ。
カレーも好きだけど、正直ナンだけでも満足できるくらい。
大学に入ってからは、ナンを求めていろんなインド料理店を巡った。
チーズナン、ガーリックナン、バターナン、ピスタチオナン…。それぞれに個性があって飽きない。
ナンの可能性は無限大だとすら思っている。
そんなある日、大学の掲示板で「ナン好き集まれ!ナン同好会メンバー募集」という張り紙を見つけた。
「こんなニッチなサークル、誰が作ったんだ?」
気になった私は、指定された日時に教室を訪れた。
教室には一人の女性がいた。
「こんにちは!ナン同好会に興味があるんですか?」
明るい笑顔で声をかけてきた彼女は、アヤカと名乗った。
アヤカは、私以上にナンに情熱を注いでいた。
「ナンって、焼き加減や小麦粉の種類で全然味が変わるんだよ。最近は、自分でタンドール窯を使わずに美味しいナンを作る研究もしてるんだ!」
なんと、彼女は自宅でナン作りに挑戦しているらしい。
私はその情熱に圧倒されつつも、同じ「ナン愛」を共有する人と出会えたことに興奮していた。
こうして、私たちは「ナン同好会」を立ち上げた。
活動内容はシンプルだ。
週末にインド料理店を巡ったり、自宅でナン作りに挑戦したりする。
ただナンを愛でる、それだけのサークル。
ある日、アヤカが言った。
「ナンの本場、インドに行ってみたくない?」
一瞬、耳を疑った。
本場インドのナンなんて、夢のまた夢だと思っていたからだ。
しかしアヤカの目は本気だった。
私は思わず「行こう」と答えていた。
そして数か月後、私たちはインド・デリーの空港に立っていた。
目的はただ一つ。
最高のナンを探す旅だ。
現地で訪れたレストランや屋台では、日本で食べるナンとは違う、素朴で深い味わいのナンが待っていた。
炭火で焼かれたナンは香ばしく、現地のスパイスと絶妙にマッチしていた。
「これが本場の味か…!」
思わず言葉を失う。アヤカも満足げにナンを頬張っていた。
だが、旅の最後に訪れた小さな村の家庭料理で出されたナンこそが、私たちの旅を締めくくる最高の一品となった。
そのナンは、どこか懐かしい味がした。
もちもちしているのに軽やかで、何もつけなくても口いっぱいに広がる優しい甘み。
焼きたての温もりとともに、その土地の人々の温かさが伝わってくるようだった。
「やっぱり、ナンって最高だね。」
「うん。ナンには、人を幸せにする力があるんだよ。」
アヤカと顔を見合わせ、笑った。
帰国後、「ナン同好会」はますます活動を広げた。
インドで学んだことを生かし、自分たちで試行錯誤しながらナン作りに挑戦した。
大学の学園祭では手作りナンを販売し、なんと行列ができるほどの人気に。
ナンを通して、人とつながり、世界を知り、自分自身を深めていく。
ナン好きという、ただそれだけの小さなきっかけが、私の人生に大きな旅と出会いをもたらした。
今日も私は、新しいナンを探して街を歩く。
次は、どんなナンと出会えるだろうか。