つくねが好きな人、それは松本亮太という一人の青年だった。
亮太は幼いころからつくねに目がなかった。
焼き鳥屋の煙が漂う路地裏を通るたび、彼の足は自然と屋台の前で止まってしまった。
家族と行った夏祭り、友達と放課後に寄った焼き鳥屋、彼女と過ごした初めてのデート——つくねは亮太の人生の節々にいつも寄り添っていた。
亮太がつくねを好きになった理由は単純だった。
もちもちとした食感と甘じょっぱいタレ、そこに振りかけられた黄身や七味のアクセント。
それは彼にとっての「心の味」だった。
母親が作るお弁当に入っていた手作りのつくねが、彼の食卓の記憶を彩っていたのだ。
大学生になった亮太は、一度つくねから離れる時期を経験した。
忙しい生活の中で、ファストフードやコンビニ弁当に頼る日々が続き、つくねを食べる余裕などなかったのだ。
しかし、そんなある日、亮太は偶然大学の近くにある小さな焼き鳥屋「鳥やま」を見つける。
ノスタルジックな店構えに惹かれ、店内へ足を踏み入れると、漂う炭火の香りと居心地のよい空間に心がほぐれていった。
「つくね、一つお願いします。」
亮太が口にしたつくねは、まさに彼の記憶にあった味そのものだった。
手作り感のあるしっかりした肉の旨味と、絶妙に絡むタレ。
店主の佐々木さんは「つくねは愛情で作るんだ」と笑いながら言った。
その日以来、亮太は週に一度「鳥やま」を訪れるようになった。
店主の佐々木さんは亮太にとって、つくねだけでなく人生の師匠のような存在になった。
佐々木さんは地元の材料にこだわり、一本一本心を込めてつくねを作っていた。
その姿に触発された亮太は、自分でもつくねを作ることに挑戦するようになる。
大学の友人を家に招いては、自家製のつくねを振る舞い、その度に褒められるのが何よりの喜びだった。
ある日、亮太は店で出会った同い年の女性、奈央に話しかけられる。
彼女もつくね好きで、初めて「鳥やま」を訪れたという。
「この店のつくね、特別だよね」と奈央が言ったとき、亮太は初めて自分以外にも同じ気持ちを抱く人がいるのだと感じた。
その後、亮太と奈央は自然と仲良くなり、一緒に「鳥やま」を訪れるようになった。
つくねを通じて二人は語り合い、笑い合い、やがて恋人となった。
亮太が自家製のつくねを作った際には、奈央は驚きと喜びを隠せず、「こんな美味しいつくねを家で作れるなんて」と感激していた。
しかし、亮太のつくね愛がさらなる展開を見せるのは、社会人になってからだった。
彼は料理の腕を磨き、自分のつくねをもっと多くの人に届けたいという夢を抱くようになった。
そして、数年後、ついに「つくね専門店」をオープンすることを決意する。
店名は「つくね屋りょうた」。
佐々木さんや奈央、そして友人たちの協力のもと、小さな店舗が開業した。
亮太が作るつくねは、彼の人生そのものだった。
母親の味、佐々木さんの技術、奈央との思い出——それらすべてが詰まった一本のつくねは、多くの人々を笑顔にした。
やがて「つくね屋りょうた」は地元で評判の店となり、亮太のつくねは地域の人々の心をつなぐ存在となった。
奈央も店を手伝いながら、亮太と共に新しいつくねのレシピを考案する日々を楽しんでいた。
つくねが好きだという小さなきっかけが、亮太の人生を形作り、彼を幸せへと導いた。
彼の物語は、好きなものに情熱を注ぎ続けることで、どんな道も切り拓けるということを教えてくれる。